「DIOR」来日ショーで感じた日本の誇り

一夜限りの「ディオール」のショー

「ディオールが日本でファッションショーを行う」

この一言が耳に入れば、それだけで心が踊る。それだけ「ディオール(DIOR)」をはじめとした、ラグジュアリーブランドが行うファッションショーは「格が違う」からだ。誰もが知っているような海外セレブやデザイナーの来日、想像を超えるような会場作り……パリのクオリティーを引っ提げて、まるで映画の世界にいるような夢の一時を提供してくれる。

ディオールと日本は、これまでも深い繋がりがある。創立者のクリスチャン・ディオールは日本の衣装文化を分析し、それを自らのクリエーションのインスピレーション源としてきた。着物のように交差させることで身体を包み込むウェア、シームレスの滑らかなショルダーライン、帯のように結ぶ幅広のサッシュベルト。いずれも伝統的な日本の衣類から導き出され、クリスチャン・ディオールのコレクションでは繰り返し採用されてきた。

「ディオール」が日本で大掛かりなファッションショーを行うのは、両国国技館で行った2014年以来となる約4年ぶりだ。一夜限りで“ディオール仕様”になった会場もさることながら、LVMH社長兼CEOのベルナール・アルノーや映画『アメリ』の主演女優として有名のオドレイ・トトゥなど、世界各国から1500人以上のゲストを招いた盛大なショーだった。

そしてこの11月30日、「ディオール」史上初のメンズ・プレ フォール コレクションのショーが東京で開催された。今年3月にメンズのアーティスティック・ディレクターに就任したキム・ジョーンズによる初のプレ フォール コレクションということもあって、ファッション業界では年末最大のトピックスの一つとして注目を集めた。本記事ではそのスケールを実感してもらうべく、華やかなショーやパーティーの模様を紹介する。

そこには「日本文化と日本人」の美しさがあった──。


エントランスにはロゴが入ったフォトコールが設置され、セレブが来る度に撮影が行われる。周囲にはその模様を見ようとする人だかりも。

今回のショー会場は東京・青海のテレコムセンター。「アクセスが悪い」「ファッションのイメージがない場所」はおよそ敬遠されがちだが、こと「ディオール」となれば、「どこであろうと行く」「空港と近くて助かる」「むしろ、どんなショーになるか楽しみ」と非日常感が期待感へと変わる。


パリで発表した2019年春夏と同様に、中央のオブジェを囲むようにして、座席が円形に配置された会場構成

エントランスでショー用のインビテーションを見せ、中に入ると……待ち受けていたのは10メートルほどある巨大な女体型オブジェ。頭部にはアンテナ、左太ももには「DIOR」の文字、「一体何を意味しているか?」「何かのコラボ?」など、ここに来て一気に膨れ上がる疑問符。だが圧倒的なスケール感に一驚し、観客は一様に無心でスマホを掲げてオブジェを撮る。


空山基(そらやま はじめ)はマリリンモンローをモデルとした作品「女優はマシーンではありません。でも機械のように扱われます。」のようにメッセージが強い作品で知られる日本を代表するアーティストの一人

観客には誰が作ったかは明かされない。ロボット(シルバーボディー)xエロティシズム(女体)という特性から、アートに造詣が深ければ「空山基」と気が付くが、そこに気がつけなければショー終了後の報道で知ることになる。

そのオブジェに向かって歩くと、足元にはインビテーションにも描かれていた「桜」が咲き誇っていた。



ショーが始まる前だけでも、現場にいると「フューチャリスティック(未来的)」「日本」といった伏線に繋がるようなキーワードが浮かび上がってくる。まるで謎を解くように時間が進み、ショーという名の種明かしを待つ。



オブジェ前で一通り撮影を終えた観客が席に座り、フロントローのゲストが埋まったことを確認した瞬間、ゆっくりと照明が落ち、ざわめきが消え、緊張感が漂う。そして、オブジェに呼応するような無数のレーザー光線と、空気感を一変させる大音量のクラブミュージックが鳴り響いた。
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写真・文=砂押貴久

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