香港大学の太古海洋科学研究所(Swire Institute of Marine Science)の研究チームは、カナダ沖の海中の堆積物や化石を研究し、海水の循環の過去と現在の様子を探った。学術誌「Geophysical Research Letters」に発表された報告によると、この100年で海の循環が劇的に弱まっている。
なかでも大西洋子午面循環 (AMOC)が弱まることは、北米やヨーロッパに今後大きな影響を及ぼす。AMOCは大西洋における海洋大循環で、海の表層では南から北に向かい、深層では北から南に向かっている。研究チームは、将来を予測するため過去に起きた類似の事象を調べた。
過去にはハインリッヒイベントという事象が残っている。これは北大西洋における突然の大規模な氷河の崩壊と融解により発生した現象だ。氷河期に起きた多くの事象と関連していると考えられていて、64万年前までさかのぼり7回起きた氷河期のうち5回で確認されている。
これと同じ現象が現在起きていると学者は考えている。北大西洋やグリーンランドで氷山や氷河が崩壊し、大量の真水が北大西洋に流れ込んでいるのだ。真水が流れ込むことにより、AMOCが弱まる。
なぜなら、AMOCの流れは北大西洋で冷たい海水が深層に沈み込むことにより引き起こされているからだ。AMOCに乗った海水は北上しながら冷やされ、周囲よりも濃度が高くなって北大西洋で深層に沈み、南下する。この繰り返しで海水が循環している。そしてこの循環が、氷山が溶けて真水が流れ込むことによって弱まっていると考えられている。
1850年まで続いた「小氷河期」と類似
AMOCの流れが弱まると、特に北米やヨーロッパの気候に影響を及ぼす。AMOCは熱帯地方で暖められた海水を北に運ぶ役割を持っていて、この仕組みがなくなれば北米やヨーロッパの北の気温が今よりも下がっていく。
AMOCは地球の気候が激変することを防ぎ、全体に熱が均等に配分されるような働きをしている。そのためこの仕組みがなくなると、地球の気候も変動する。
現在の状況は1300~1850年頃まで続いた小氷河期と似ていると学者たちは指摘する。この時ヨーロッパには厳寒が訪れ、飢餓や干ばつ、そして広範囲での人口減が起きた。この小氷河期の原因はまだ判明していないが、北大西洋の北部にある氷が溶けだして海洋循環が弱まったことが原因だとする説が有力だ。
現代の科学をもってすれば長期的な気候変動にも対応できるが、経済や人々の暮らしに多大な影響が及ぶことになる。今後も注意深く観測を続け、未来を予測するしかないだろう。