スリランカが掛かった債務のわなに関する問題は、港の建設工事を中国の建設会社に発注したことが発端だ。工事に必要な資金を賄うことができなかったスリランカは、中国から融資を受けた。だが、返済が困難になり、債務を株式化して中国に譲渡。その結果、スリランカ国内の2つの主要な港は、中国が所有権と運営権を手にすることになった。
フィリピンは先ごろ、国内の複数のインフラ整備事業について中国から支援を受けることで同国と合意した。ただし、幾つかの理由から、中国がフィリピンで「スリランカ戦略」を推進できる可能性は極めて低いと言える。
フィリピンのニュースサイト、GMAニュースオンラインによれば、フィリピン大学海事・海洋法研究所のジェイ・バトンバカル所長はその理由の一つとして、自国がスリランカに比べ、対外債務を適切に管理できていることを挙げている。フィリピンにはその他の新興市場国が経験した深刻な債務危機を回避できるだけの能力があるということだろう。
フィリピンの経済規模も、理由の一つだ。各国・地域の経済関連データを提供するトレーディング・エコノミクスのデータによれば、同国の国内総生産(GDP)は、スリランカの4倍近くに上っている。
さらに、フィリピンは高い経済成長率を維持。今年第3四半期のGDP成長率は前年同期比で6.1%となり、1982~2018年の3.79%の伸びを大きく上回った。昨年の経常収支は対GDP比で-0.80%(1980~2017年の平均は-0.45%)。外国で就労するフィリピン人からの送金のおかげで、同国は分相応の生活ができていると考えられる。
最も注目すべき点は、フィリピンの政府債務残高の対GDP比が約42.10%となっていることだ(1990~2017年の平均値56.25%を大幅に下回る)。フィリピン経済は、すぐに債務危機に陥るような状況にはない。また、外貨準備高は約747億2200万ドル(約8兆4680億円)だ。1960~2018年の平均である163億4145万ドルを大きく超えている。
フィリピンとスリランカの経済統計は、著しい対照をなしている。今年のスリランカのGDP成長率は前年比3.70%となり、大幅に減速(2003~17年の平均は5.88%)。経常収支は対GDP比で-2.60%だった。政府債務残高は対GDP比で77.60%となり、1950~2017年の平均である69.69%を大きく上回っている。
つまり、大幅な経済成長が続き、スリランカより経済規模が大きいフィリピンを、中国がスリランカと同じように変えることは不可能だ。フィリピン中央銀行は、債務危機が発生する可能性に対処できるだけの外貨も保有している。