しかし、ここにきて英国では映画やテレビドラマを撮影するスタジオが不足しているのだ。スタジオの予約は大手映画会社が数年先まで押さえており、小規模な独立系プロダクションは脇に追いやられている。
「スターウォーズ」や「007」などの撮影に使われた世界的な映画スタジオ「パインウッド・スタジオ」は、今年の稼働率が100%近いという。同社は投資家に対し、「スタジオに対する需要が供給を上回っている」と述べている。また、ネットフリックスも最近「我々は英国でより多くの映画を制作したいが、スタジオが不足している」とコメントした。ある推計によると、英国では190万平方フィート(約17.6万平方メートル)ものスタジオスペースが不足しているという。
「パインウッドから、今後数年間はスタジオスペースを提供できないと言われた」とゲーム開発会社Rebellion DevelopmentsのCEO、Jason Kingsleyは話す。Kingsleyは、日常生活を中世の騎士に扮して過ごす一風変わった経営者だ。彼はフォーブスに対し、1億ドルを投じて21万5000平方フィート(約2万平方メートル)のスタジオを建設する計画を明らかにした。
新スタジオは同社本拠を置くオックスフォード郊外に建設中で、もともとは新聞社「デイリー・メール」の印刷工場があった場所だ。
Rebellion Developmentsは傘下にコミック出版社「2000 AD」を持ち、2012年に2000 ADの代表作である「ジャッジ・ドレッド」を共同でプロデュースした。Kingsleyによると、人気シリーズ「Mega City One」の撮影が開始できなかったことを受け、止むを得ずスタジオ建設を決断したという。
「英国には優れた人材や環境のほか、税の優遇措置もあるため、我々はこのシリーズを英国で撮影したかった。しかし、撮影するスタジオが見つからなかった。そこで、スタジオがないのであれば自分たちで作ればいいと考えたのだ。すぐに銀行をはじめ、様々な人に相談し、スタジオに転換できる土地を探した」とKingsleyは話す。
ハリー・ポッターの製作スタジオも買収
Kingsleyがスタジオを経営するのはこれが初めてではない。Rebellion Developmentsは、2003年に「Audiomotion」というウィートリーに本拠を置くモーションキャプチャのスタジオを買収している。Audiomotionは、「グラディエーター」や「ハリー・ポッター」、「ワールド・ウォーZ」などの映画に使われた。しかし、新スタジオは、それとは比較にならない規模を誇る。
「我々は10年間に渡って多くの大作にモーションキャプチャなど技術サービスを提供してきたが、これだけ大きなスタジオを運営するノウハウはまだ持っていない」とKingsleyは話す。彼によると、新スタジオでは今後数年で500人の雇用を創出するという。
しかし、そのためにはますスタジオを探している映画プロデューサーたちに宣伝をして回る必要がある。Kingsleyは、スカイやネットフリックス、アマゾン、アップルなどの新興企業からユニバーサルやディズニーなどの伝統的企業まで、スタジオを提供する相手は問わないという。また、小規模な独立プロダクションにも提供し、有望なプロジェクトには共同出資を検討するという。
新スタジオが英国映画産業の救世主となるかは不明だが、ゲームやコミック、出版、テレビドラマや映画などを手掛け、「英国版ディズニー」と呼ばれるRebellion Developmentsが今後も飛躍を続けることは確かだろう。