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2018.12.01

トヨタも出資「車内の赤ちゃんを救う」イスラエル企業の技術

10月29、30日にテルアビブのハビマ国立劇場で開催された「スマート・モビリティ・サミット」。世界中から2500名以上の関係者が来場し、モビリティ分野のイノベーションの最先端にふれた(筆者撮影)


米国では年間37名の幼児が車内で死ぬ

「日本を訪れて最初に驚いたのは、人々が常にお互いに敬意をはらっている点。エレベーターに乗り込む際、イスラエル人なら先を争って乗り込むが、日本人には譲り合う気持ちがある。製造業分野で日本企業の求める水準は非常に高く、ここで信頼を勝ち取れたら世界で通用すると思った」

EV(電気自動車)や自動運転車、高精度なカーナビゲーションシステムの開発が進むなか、2015年創業のガーディアンオプティカルは、車内の認識技術に特化した企業として始動した。

「車内で幼い子供が死亡する事故は、世界中で多発している。アメリカでは年間平均37名の乳幼児が、車内に置き去りにされて亡くなるというデータもある。技術を磨き上げるなかで、1マイクロメートルの精度で物体や人間の動きを検知するテクノロジーが生まれた。この技術で何が解決できるかを考えたとき、まず浮かんだのが子供たちを救うという課題だった」

ガーディアンオプティカルの光学センサーは、車内の天井から、個々の搭乗者の姿勢や体調、心拍数といった微細なデータを取得可能だ。

「創業当時はモビリティ分野で、ビッグデータの活用が叫ばれ始めた頃だった。車内のデータを活用すればシートベルトの装着状況や、エアバックの作動状況、ドライバーの注意力の変化などの膨大なデータを取得できる。乗用車に限らず、バスやトラックなどの商用車での利用も想定できる。収集したデータは保険企業による活用も想定できる」

人命を救う軍事テクノロジー

起業当初から世界の大手自動車メーカーにアプローチを開始したドータンは、年に約2回の来日を繰り返すなかで、未来創生ファンドからの出資を獲得した。トヨタとしては初のイスラエルのモビリティ分野のスタートアップへの出資となった。

さらに、今年6月に実施した310万ドルの資金調達には、損保ジャパンなどの保険会社を傘下に持つSOMPOホールディングスも参加した。同社の資金調達額は累計で約1100万ドルに達している。


イスラエル国民の大半は18歳から男性は3年、女性は約2年の兵役が義務づけられている。ガーディアンオプティカルCEOのドータンは兵役の終了後、7ヶ月間、ラテンアメリカ諸国をバックパッカーとして放浪した(筆者撮影)

現在の社員数は27人。イスラエル企業の多くが軍事テクノロジーを基盤として成長を遂げるなかで、ドータンもイスラエル空軍を経て、陸軍で戦車部隊のコマンダーを務めた経歴を持つ。また、CTOを務めるガイ・ラズ(Guy Zaz)は、軍の技術エリート選抜プログラムの「タルピオット」出身で、ノーベル賞受賞者を多数輩出するワイツマン科学研究所でPh.Dを取得した物理学者だ。

日本の四国ほどの面積に人口870万人を抱えるイスラエルは、国土の大半が砂漠に覆われ、資源が乏しい環境下で、イノベーションを武器に国力を増してきた。イスラエル政府はモビリティ分野の技術発展により、石油への依存度を2025年までに6割削減するゴールを掲げている。その背景にも、周囲を敵対する産油国に囲まれたこの国が、石油依存度を抑えることで、安全保障上のリスクを減らしたい意図がうかがえる。

自動運転を筆頭とするモビリティ分野のイノベーションは、人間の生死に直結する重大な役割を担っている。国家の危機感に根ざしたイスラエルのテクノロジーが今、この分野の最先端を切り拓こうとしている。

取材・文=上田裕資

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