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2018.12.16

日本発! 米国の人気テレビ番組「SHARK TANK」誕生秘話

サメと呼ばれる投資家たち。「SHARK TANK」第10シーズンより(Getty Images)


さらに、いろいろな年代の視聴者モニターを呼んで、観てもらうこともできる。具体的に「どこが面白いか? どこが面白くないか?」などマーケティング調査をして、ネガティブな感想を集約する。それを本放送の第1回に活かしていく。

つまり、パイロット番組を制作することにより、本放送までに改良するチャンスができて、より完成度の高い番組になる。特に、地上波で放送する前に、視聴者の反応を観ることができるのは、最大のメリットだ。

このような過程を経て綿密に作られた本放送は、完成度が高く、面白い。結果として視聴率も高い。20年以上前に作られた番組が、いまだに“長寿番組”として放送され、人気を博しているのは、パイロット番組のおかげかもしれない。

しかし、「SHARK TANK」は、「¥マネーの虎」という見本にできる完成版があるのに、なぜパイロット番組を制作したのか? それには、理由があった。

日本では「人間性」が決め手になるが、アメリカでは!?

「SHARK TANK」のパイロット番組の制作費は、なんと3億円。日本の10本分に相当する、とんでもない予算規模だ。しかも、60分のパイロット番組を1本作るためだけに、3日間で約30人の挑戦者を呼んで収録した。

実は、確かめたいことが2つあった。「アメリカ人の投資家は、どんなビジネスに投資したがるのか?」「どういう挑戦者だと、番組は盛り上がり、面白くなるのか?」。アメリカ版のパイロット番組は、スポンサー試写用というより、制作サイドのシミュレーションという意味合いが強かった。

そして実際に収録してみて、日本とはまったく違うことが浮き彫りになった。

アメリカ人は「投資案件として、すでに商品化されているものに興味がある」。そして「投資するかしないかを最終的に決めるための利益配分について、熱い議論になる」。これは日本では起こらなかった現象だ。盛り上がる部分が、まったく違ったのだ。そして本放送に向けて、改良を重ねた。

7カ月後、満を持して放送が始まると、緻密に作り込んだ完成度の高い本放送は、予想通り、初回から話題になった。そして全米に「SHARK TANK」ブームが巻き起こった。


投資家に新商品をプレゼンする挑戦者夫婦。「SHARK TANK」第10シーズンより(Getty Images)

「SHARK TANK」が放送を開始して、ちょうど10年になる。オバマ氏が8年の大統領任期を終え、その後トランプ氏が就任して2年。前述の「The Apprentice」が約4年、第6シーズンで終了したことを考えると、なかなかの長寿番組だ。しかも、番組の人気は衰えるどころか、シーズンを重ねる度に、勢いを増している。

余談ではあるが、トランプ氏が大統領になってから「彼が当選したのは、栗原のせいだ」とよく言われる。彼を有名にしたのが「The Apprentice」で、その制作のヒントとなった「¥マネーの虎」を作ったのが僕だから、という理屈らしい。「風が吹けば、桶屋が儲かる」とはいうが、とんでもないこじつけだ(苦笑)。

テレビ番組が、なにかしら社会に影響を与えるというのは、テレビに関わっている人間としては嬉しい。しかし、トランプ氏のエピソードだけは、正直、複雑だ。

文=栗原 甚

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