経済・社会

2018.11.30 06:30

トランプ大統領のメディア分断、CNN叩きでさらに浮き彫りに

11月7日の記者会見でCNNテレビのジム・アコスタ記者(右)に反論するトランプ米大統領(Getty Images)

11月7日の記者会見でCNNテレビのジム・アコスタ記者(右)に反論するトランプ米大統領(Getty Images)

米トランプ政権の初の中間選挙(11月6日)は、共和党が上院で多数派を維持し、民主党が下院で多数派を奪還する結果となった。

これにより、トランプ大統領の力の濫用は、ある程度制限されることになるが、大方の予想通り、彼の言動や行動は一段と過激化している。早くもCNNテレビのジム・アコスタ記者(47)に対して、難癖をつけホワイトハウスのプレスパス(入館証)を一時没収した。

見逃せないのは、アコスタ氏への攻撃に対して、メディア側が結束して対抗しなかったことだ。トランプ氏は、2017年1月に大統領へ就任して以降、とくにCNNなど大手メディアを「国民の敵」と呼んで、厳しく批判してきた。実は、このことがメディア側に「分断」を引き起こし、米国の民主主義の土台でもあるメディアの「ウオッチ・ドッグ(権力の監視)」機能までも揺るがしている。

攻撃される花形記者

トランプ氏は、中間選挙の翌11月7日、記者会見で、中米からの移民キャラバンの問題や、2016年の大統領選をめぐるロシア疑惑について質問しようとしたCNNのアコスタ氏に、指を差しながら反論。そのうえで、「もうたくさんだ。マイクを置け」と要求した。その際、アコスタ氏がマイクを取り上げようとした女性スタッフを手で制したことを問題視し、プレスパスを取り上げた。

サンダース大統領報道官は、アコスタ氏が手を振り払うかのような映像をツイッターに掲載し、「女性に手を上げた。許さない」と非難する徹底ぶりだった。ちなみに映像は「改変されている可能性がある」(米メディア)との疑惑も出ている。

筆者は、2012年5月から5年間、ワシントンに駐在し、大統領がオバマ氏からトランプ氏へ移行したことによる激変を体験してきた。アコスタ氏の苦境を慮ると、トランプ氏がもたらした有為転変をまざまざと見せつけられた思いがする。なぜなら、アコスタ氏はオバマ時代、誰もがうらやむ花形記者の1人だったからだ。

キューバ人の父親を持つアコスタ氏は、大学卒業後、地方の放送局などを経て2007年にCNNへと移った。ホワイトハウスの記者会見室の1列目に座り、誰に対しても思うままに質問していた。
 
2016年3月、オバマ大統領(当時)の歴史的なキューバ訪問を同行取材したときのこと。オバマ氏とラウル・カストロ国家評議会議長(当時)の首脳会談後の共同記者会見で、アコスタ氏は、カストロに対し、「なぜ、政治犯を釈放しないのか」「国のために民主主義を目指すのか」と質した。その後、怒りをあらわにするカストロ氏に、別の米メディアのベテラン女性記者もキューバの人権問題について畳みかけた。


ハバナの革命宮殿で共同記者会見をしたオバマ米大統領とラウル・カストロ国家評議会議長(2016年3月21日撮影、Getty Images)

黙り込むカストロ氏。そのとき、「(質問した記者は)米国で高く評価されているジャーナリストの1人で、ほんの少しの答えで感謝すると思う」とカストロ氏に声を掛けたのは、横に並んで立っていたオバマ氏だった。
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文=水本 達也

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