ビジネス

2018.11.29

企業の成長にカルチャーコードが不可欠な理由──HubSpot幹部が明かす

HubSpot COOのJ・D・シャーマン


──パティ・マッコード氏がアドバイザリーボードに入ってましたが、カルチャーコードをまとめていく上で取り入れた彼女の考えなどはありますか?

HubSpotのカルチャーコードをまとめる上で特にパティから影響を受けたのは、社員に「自律性(autonomy)」を持たせることと、社内の透明性の大切さです。

例えば、透明性については2015年のIPO(新規株式公開)において全社員を正式なインサイダーに指定し、上場後も継続して社員に広い範囲で情報共有ができるようにするなど、上場企業としての社会的責任を果たしながらもHubSpotが目指す文化を保持していくために、さまざまな施策を考え、実行しています。

──経営陣の間で議論されたカルチャーコードを、どのように2600人以上の従業員に対して浸透させているのですか?

意図的に行なっていたわけではないのですが、日頃の会話でカルチャーコードに登場する語彙を使ってきたのは、非常に効果的だったと思います。

例えば、ミーティングでは「UGJ(Use Good Judgement)」や「GSD(Get Stuff Done)」「SFTC(Solve For The Customer)」といった言葉が自然に飛び交います。役員陣からスタッフまで、自分なりに解釈し、言語化するなかで、組織全体のカルチャーへの理解が深まっていく。その他、定期的に行うオフサイトミーティングなどでも、従業員がカルチャーコードについて議論する時間も積極的に設けています。

そもそもカルチャーコードは、トップダウンで浸透させるというより、ボトムアップで構築されていくものだと捉えています。世界8拠点で働く2600人の従業員にまったく同じコードを浸透させるのは現実的ではありません。各拠点の各従業員が自分なりにコードを読み解き、日頃の語彙や行動で表現してくれるのが理想ですね。



確固たるカルチャーは顧客との長期的な「信頼」を育む

──日常的に使われる語彙に反映されているのは興味深いです。

これもHubSpotの特徴かもしれませんね。例えば、社内では海に関する比喩をよく使っています。予算の策定時期は「Tuna Season(マグロの時期)」、決断を下すことは「Sail the Ship(船を漕ぎだす)」。ジョークではなく真面目なミーティングで登場する言葉です。

ただの言葉遊びだと思うかもしれませんが、カルチャーコードにもある「ユニークな会社」であり続けるためには必要な取り組みだと思っています。初めて聞いたメンバーは驚いてますけどね(笑)

──そこまで徹底して文化形成に取り組んだことで、組織に対してどのようなポジティブな影響がありましたか?

1つ目は、求人にコストをかけずとも、組織にフィットする人材を採用できるようになったこと。現在では7割がインバウンドでの採用です。カルチャーコードにも記載していますが「優れたカルチャーは採用を簡単にしてくれる」と実感しています。

2つ目は、短期的な利益よりも、本質的な価値提供を優先する人材を育成できること。HubSpotはソフトウェア会社ですが、提供しているのはソフトウェアだけではありません。顧客の課題を解決し、持続的な成長に寄与するソリューションを提供しなければいけない。

以前、とあるセールスのメンバーが、顧客に対して「しばらく無料のソフトウェアを試した方があなたの組織にとってプラスだ」と伝えていました。まさに「Solve For The Customer」、顧客の成功を優先した行動の模範です。

──短期的な利益に直結しない行動であっても、カルチャーコードに照らし合わせて評価できる。

その通りです。社内のメンバーの間に「Solve For The Customer」が共有されているからこそ、自社の短期的な利益よりも、顧客との「信頼」を優先したメンバーが評価される。実際、HubSpotでは「顧客が継続的に使ってくれたか否か」も、セールスの評価指標の一つです。

新しい社員は、日常的にカルチャーが実践されている様子を見て、「コード通りに動いていいのだ」と安心でき、自らの行動に反映していく。この積み重ねが、HubSpotならではの価値創出につながっていると感じます。
“してはいけない行動”より“すべき行動”を示す意義
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文=向 晴香 写真=帆足宗洋

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