復帰と同時に出世した 日本人パパの「スウェーデン育休」体験レポ

次女とは育児休暇を通じて圧倒的に絆が深まった。服や靴のサイズは全て把握しているし、寝かし付けもお手の物。


私の場合は、不在の4カ月間に合わせて、前後数カ月をカバーする短期間の派遣社員を雇い、さらに新入社員を1人雇った。私はこの2人のために業務を全てリスト化し、状況を少しずつ伝えていった。しかし、私の業務は、プロジェクト全体をR&Dの観点で見渡す役割で、その開発経験は13年目となる。できるだけわかりやすくリスト化しても、派遣社員と新入社員2人では全てを託すのは不可能であった。

そこで、私は経験25年の同僚と上司をも巻き込み、不在の間、チームとして円滑に業務が進めるように、役割分担を提案した。その結果、育休に入ってすぐは何度か電話が鳴ったが、徐々ににその回数は減っていった。

会社のメールは基本、ccに自分の宛先が入れられて届くが、見るか見ないかは本人の自由だ。見る権利もあるし、見ない権利もある。私は気になってしまうので、全てに目を通していたが、なるべく口を挟まないよう努めた。

そして、11月から4カ月ぶりに職場復帰を果たしたが、同時に私は「出世」することになった。これは、私が育休に入る直前に、会社の事業の方向性と組織を比較し新ポジションの設立を提案し、かつ自らがそのポジションを務めることも併せて提案していたためだ。育休中に、その件については何度か会社とやりとりがあり、この提案が実現した。

このように、スウェーデンでは育児休暇を理由に、いわゆるステップダウンは起きない。むしろ私のようにタイミングよくステップアップするケースもある。


平日の昼間に父親がベビーカーを押す姿は日常の光景。左の友人は、次女と同じ月例の子供がいて育休中に数え切れないほど会った。

私と同時期に育児休暇を取得していた友人が2人いた。彼らとは頻繁に会い、互いの家を行き来したり、公園へ行ったり児童館へ行ったりとさまざまな行動を共にした。次女と2人きりで過ごすこともあったが、多くの日はこうして友人と過ごした。

また、児童館へ行けば、父親がゴロゴロとやって来ている。日によっては半数が父親の時だってあるぐらいだ。ここスウェーデンでは父親が育児休暇を取得するうえで、マイノリティを感じることはまずない。

社会の速度をゆったりさせる

私が育児休暇中の4カ月に見えてきたことは、それはスウェーデン社会が適度にリラックスしていることだ。実に9割以上の働き盛りの父親が、当たり前のように職場を抜け、数カ月もの間不在にし、また戻ってくる。引き継ぎの方法や業務の効率化など、スウェーデンが日本と比較して何かが突出しているとは思えない。では何が違うのか、それは社会の回る速さが根本的に異なるのだ。

この国では、国民全員に、最低5週間の有給休暇を取得する権利が法律で保証されており、残業も一般的ではない。国民1人1人が、仕事よりも家族やプライベートを優先することを前提とした社会となっているのだ。まず、この前提が日本とは大きく異なっている。
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文=吉澤智哉

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