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開発の山場は、コスト削減のための内部フレームの樹脂化と、撮影者の技量に頼っていた「オートアライメント」機能だった。撮影する網膜を画面の中心の位置に合わせる技術だ。小さな瞳孔の位置を機械が認識し、ピントを合わせるのは至難の業だった。自動運転などにも使われている航空測量の技術を導入し、オートアライメントを実装したが、付けまつ毛など想定外の物体が機械の妨げになった。

一つ一つ障害を取り除き、発売に漕ぎ着けたのは13年3月。一般的な眼科用器機の開発期間よりも1年近く長くかかったが、世界初のオートアライメント機能搭載のフルオート眼底カメラとなった。3D OCT-1Maestroだ。

撮影は従来の操作用レバーではなく、タッチ画面で行う。取材時は、数回タッチしただけで、素人でも綺麗な眼底写真が撮影できた。初お披露目となった英国での展示会での評判は想像以上だった。試した客から「こんなに簡単に撮れるなんて信じられない」と感嘆の声が聞かれ、高額な機械だがこの展示会だけで100台以上売れた。OCT機能がついていない眼底カメラ、NW400も翌年発売開始となった。


山形の工場。眼底カメラなどの精密機器はほぼ国内で製造している。

今回の自動AI診断で採用されたのは、そのOCT機能がついていないNW400。その分コストが安く、より普及しやすいとアブラモフは考えたからだ。

しかし、今後眼底カメラもOCTも一般に普及すれば、AI診断の裾野も広がりそうだ。眼底写真だけでなく、OCT画像を使ったAI診断開発も盛んになっている。IDx-DRの承認で、AI診断は次のフェーズに進んだと言えるだろう。

現在、トプコンのアイケア事業を取り仕切る大上二三雄(常務執行役員・アイケア事業本部長)は、AI診断について、「とても魅力的だ。時間と場所の制限なしに医師の知見を得られる。社会的にも重要な価値がある」と期待を寄せる。将来的には、フルオートの眼底カメラやOCTがドラッグストアや眼鏡店など身近な場所に導入され、そのデータを介して診療所や病院などの医療機関がつながるネットワーク作りを目指す。

今年4月に眼鏡店向けクラウドデータ管理システムと遠隔診断サービスを提供するフィンランドのKIDE社を買収。ヨーロッパやアジア諸国で遠隔診療のサービスも開発中だ。「人々により身近な場所で、手軽な眼の健康チェックを提供できれば、医療費の抑制や人々のQOL向上にもつながる」(大上)。

眼科検査機器は、新興企業の参入が進み、価格競争も開発競争も激化している。「新技術を開発しても数年で追いつかれてしまう」と前述の岡田は話す。しかし、14年に発売したNW400は、IDx社のAI診断で4年後に「想定外の」脚光を浴びるようになった。トプコンの世界初フルオート眼底カメラに、今のところライバル社は追いついていない。


福間康文◎トプコン取締役兼常務執行役員、R&D本部長。1958年生まれ。81年入社。アイケアビジネスに長く携わる。07年から10年まで米国の開発拠点に赴任。18年からR&D本部長。

大上二三雄◎トプコン常務執行役員、アイケア事業本部長。1981年アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア)入社。企業戦略や事業開発に従事し、2003年に退社。18年から現職。

マイケル・アブラモフ◎アイオワ大学眼科部・視覚科学部教授。IDx社の創業者・プレジデント。STAフェローシップで来日し、理化学研究所で生物医学工学や情報学に関する研究もしていた。

文=成相通子 写真=ヤン・ブース

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