ビジネス

2018.11.29

「遠隔x自動」のクラウド診断を可能にするポータブル「超聴診器」

AMI 小川晋平

「心臓の雑音は、集中しないと聴こえにくいことがある。もっと安定的に聴き取りやすくできないだろうか」
 
循環器内科医として大学病院に勤務していた頃、小川晋平は患者の胸に聴診器をあてながら終始、必要性を感じていた。

雑音の原因は大動脈弁狭窄症。心臓弁の一つである大動脈弁の開きが悪くなり、血流が妨げられる。患者数は推定100万人。無症状の期間が長いが、進行すると突然死の恐れもある。ただし近年は、カテーテルで行う「TAVI(タビ)」と呼ばれる開胸手術なしの治療法が普及し、早期発見できれば大事には至らずに済む。

「集団検診では、受診者数が多くて時間がかけられないし、周囲の騒音に邪魔されて、聴診が難しい状況がある。短時間で、騒音に干渉されず、客観的に、医師の診断をアシストできる聴診器があれば、大勢の患者さんを救えるようになる」

2015年11月、小川はたった1人でAMIを起業し、新型聴診器の開発に着手した。預金を取り崩し、非常勤医師のアルバイト代も注ぎこみ、周囲から変人扱いされるのを歯牙にもかけず、「超聴診器」を創り上げる。
 
超聴診器は、電気シェーバー大の軽量級。胸の中心に、ほんの5〜10秒間当てるだけで心電をトリガーにして心音を解析すると同時に可視化し、大動脈弁狭窄症の兆候を自動的に診断できる。

「この装置は、遠隔医療に向いている」と考えた小川は、遠隔医療専用のビデオチャットシステムを開発し、この8月、特許を出願した。

「人の声と心音は周波数が異なるため、電話回線を通すと、心音のデータが壊れてしまうことが、実験によって分かりました。そこで音声と可視化したデータを併用することで、診断の精度を担保する工夫を加えました」
 
特定健診(いわゆるメタボ健診)では、聴診が必須項目だ。遠隔で聴診ができるようになれば、わざわざ医療機関に行かなくとも、職場や自宅での実施が可能になり、これまで面倒だからと敬遠していた層の受診率アップが期待される。

「この秋からは、水俣市(熊本県)と連携し、遠隔医療の実証プロジェクトを始める予定です。近い将来、特定健診は遠隔が当たり前になるでしょう」

文=木原洋美 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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