ゴーン前会長逮捕、アメリカでは日本の役員報酬開示の緩さを問題視

カルロス・ゴーン(Photo by Chesnot/Getty Images)


日本の経営者の報酬の相場が、世界に比してとても安いということは、アメリカではよく知られている。「報酬が安いのだから、開示についても手ぬるかったという文化的経緯があり、また、日本人は他人の財布の中は覗きたがらない」ということを解説した日本人のコンプライアンス専門家の意見を引用しながらも、それは緩い開示の理由になるのか、と疑問も投げかけている。

役員報酬の多寡は問題ではない

アメリカの経営者が一般従業員の何100倍、何1000倍も報酬をとることが、長年のビジネス界の問題となり、この格差はますます助長されるようになって社会問題化が深刻であることは間違いない。先の大統領選挙でも、民主党のサンダース候補などは、まさに経営者の法外な報酬を敵対視して多くの票を集めた。

しかし、詳細に役員報酬を開示するのならば、民間会社の話であり、あとは市場の原理に任せるべきという意見も、アメリカではまた普遍的だ。そこに嘘がなければ、金額の多寡については、フェアであるかどうかには関係がないという立場だ。

日本の報道では、ゴーンのあれもこれもという私利私欲の強欲お手盛り手法と、それを黙らせた強権経営ばかりが取り沙汰され、「なぜそれほどに金をもらう必要があるのか」というコメントで溢れている。一方、アメリカの報道は、この報酬開示に「嘘があったのかなかったのか」の1点に絞られている。

日産でのゴーンの開示報酬は年間約10億円前後と伝えられている。ちなみに、ゼネラルモーターズのメアリー・バーラCEOは20億円前後をもらっている。なるほど、逮捕事案となった記載漏れのあった5年分の報酬である約50億円をプラスして、平年化すれば、ゴーンの報酬はバーラと釣り合う。

今回のゴーン前会長の有価証券報告書への報酬記載漏れは、もしかしたら在日20年を超える知日派のゴーンにとってみれば、彼なりの、日本でグローバル経営をするためのギリギリの和洋折衷案だったのかもしれない。

もちろん不法行為は罰せられるべきだ。しかしこの事件は、これから国際的なビジネス競争に参入しようとする限りは、日本の実業界にとって重い課題も示している。

連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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