トランスジェンダーは「男子の部」「女子の部」? 太田雄貴が考えるスポーツ業界でのLGBT

日本フェンシング協会会長の太田雄貴(左)、東京レインボープライドの共同代表理事 杉山文野(右)




トランスジェンダーは「男子の部」「女子の部」どちらに出場すべき?


杉山:「スポーツとLGBT」でよく話題になるのは、競技種目における男女の境目ですね。トランスジェンダーの方は「男子の部」「女子の部」のどちらに出場すべきか難しいケースや、自身が望む性の競技に出場できないケースも少なくない。

太田:見直したいとは思うのですが、どうしても身体面のギャップは存在しますよね。やはり力などでは男性の方が優位なことが多いので、女性が男性の部に出ることはともかく、男性の体をもった人が女性の競技に出るのは卑怯だと言われかねない。タイムやスコアだけではなく、心理的な面でもアンフェアな印象を与えてしまいます。

杉山:2016年に五輪規定も改訂され、女性から男性へ性を移行したFTM(Female to Male)トランスジェンダーの選手はほぼ無条件で、男性から女性へ移行したMTF(Male to Female)トランスジェンダーの方はいくつかの条件を満たせば自身が望む性別での競技に出場できるようになりました。

まだFTMの選手が男性の部でメダルを取ったというのは聞いたことがありませんが、もしメダルを取るような候補が現れたら「男性ホルモンの摂取量が多いからフェアではないのではないか?」という議論も出てくるかもしれません。

義足の選手が早く走れなかった時代は健常者と同じフィールドで走るのは美談でしたが、健常者よりも早くなってきた昨今ではフェアではないという指摘が出てきたのと同じような感じです。

太田:すぐに答えを出せる問題ではないですよね。いっそ天下一武道会のように、あらゆる規制をなくしてはどうでしょう。

杉山:なるほど(笑)。性別や属性を制限しない種目は、たしかにアリかもしれないですね。ある程度の男女差があるのは仕方がないのかもしれません。ですが、そこにもう一つ、ジェンダーやセクシュアリティの関係しない選択肢もあれば、より多くの人に門戸を開けるはずです。

太田:フェンシングはそういうことを実現しやすい競技だと思います。だからこそ思想を練るだけではなく、会長として実際に行動して結果を残さなければならない。

たとえ男子の部・女子の部ではない「第三の部」をつくったとしても、そこに出場している人が差別的な目線を向けられたら意味がありません。

差別が起こらない仕組みをつくると同時に、LGBTに対する人々の理解を深める必要がある。そのためには杉山さんのような当事者や、当事者に近い立場から発言できる僕たちが、当事者の方々が自信をもって過ごせる振る舞いを見せたいですね。

風通しの悪い組織が「無意識の差別」を生む

杉山:僕がよく言っているのは、多くの差別は悪意からではなく、無意識の習慣から生まれるということです。

僕がフェンシング選手だった頃は、周囲から「おかま野郎」「男だろ」などと言われることも少なくありませんでした。これは言っている本人からすれば「もっと頑張れ」程度の意味だったのかもしれません。

フェンシングに限らず、スポーツ業界の暴力的ともいえる無意識を、どうやって変えればいいのでしょう?

太田:LGBT差別の対策に限ったことではありませんが、組織の風土を変えるには「人材の流動性」を高めるしかないと思っています。

組織でハラスメントが生まれる原因は、あるポストに同じ人がずっととどまって、アンバランスなまでに権力を握ってしまうことです。それを防ぐためには、組織の風通しを良くするしかありません。

どうして風通しが悪くなるのかというと、組織のキャリアパスは基本的に一本道だからです。スポーツ組織でいうと、良い選手がコーチになり、次に監督や強化本部に就き、その後会長や理事になることが多い。

しかし、名選手が必ずしも教え上手というわけではありません。能力のある選手が年をとったという理由だけでコーチに就任してしまっては、本人にとっても教えられる人々にとっても不幸な結果を生みます。一本道のキャリアや人材評価のせいで、適材適所の人材配置ができずに、才能を殺してしまうんです。

だからフェンシング協会では、それぞれのポストごとに必要な要素をしっかり要件定義し、外部を含めたあらゆる場所からそれを満たす人材を探します。

例えば、指導コーチなら「しっかり目標を立てて、選手とともに互いの目標をすり合わせ、そこまで選手を連れていくポスト」というようにです。

先日はビズリーチさんとタイアップして複業者限定で戦略マネージャーを募集しました。すると、フェンシング経験がある人からの応募もありました。もしかしたらその人も、杉山さんのように昔のフェンシング業界に不満があったのかもしれない。そういう人が戻ってきたいと思える環境をつくれているのは、嬉しいことです。

杉山:かもしれないですね。僕はフェンシングは好きだったけど、セクシュアリティのこともあって自分の居場所が見つけられず、逃げるように引退してしまったので。またこういった形で関われるのはとても嬉しいことです。太田会長には大いに期待しています。

太田:ホントかな(笑)。あとはなるべくたくさんの人に得意な分野で戦ってもらうことですね。日本の組織は、社員に苦手なことをやらせすぎです。

明日は対談の後編を公開。子どもたちに必要なのは道徳の授業ではなく、早いうちからLGBTと接点を持つことだという。太田が早速フェンシング協会での実施を検討した、施策とは。

連載 : LGBTからダイバーシティを考える
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構成=野口直希 写真=山田大輔

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