ビジネス

2018.11.29

証券業界が「本気で」SDGsに取り組む理由

国際連合広報センター所長の根本かおる、日本証券業協会会長の鈴木茂晴


根本:証券業界が取り組むSDGsの推進目標として、「貧困・飢餓の根絶と地球環境の保護」「働き方改革・女性活躍」「社会的弱者への教育支援」の3つをあげていらっしゃいます。

まず1つ目の「貧困・飢餓」ですが、貧困・飢餓の根絶や地球環境の保護といった社会的課題解決に向けた投資、例えばESG投資やインパクト・インベストメントの促進について検討されていると伺っています。いまやESG投資に関する記事を見ない日はありませんし、ソーシャルボンドなどの知名度もずいぶん向上しました。
 
鈴木:グリーンボンドやワクチン債、ウォーターボンドなど、社会課題の解決と経済的利益との両立を目指すインパクト・インベストメントの促進は、まさに証券業界のビジネスだからこそできることです。寄付とは違った形で社会貢献をしたいと考えている人、会社はたくさんあります。そうしたニーズを満たし、さらに投資として利益を上げることもできますから多くの方に好評です。

「リターンが少ない」は思い込み

根本:SDGsの達成のためには、世界全体で年間5兆~7兆ドルの投資が必要とされ、途上国全体では年間2.5兆ドルの資金ギャップがあるといわれています。大きなお金のうねりをつくり、自然と資金を必要としているところにお金が流れ込んでいくという仕組みにする必要がありますから、インパクト・インベストメントはそのニーズにこたえるものですね。

鈴木:社会課題解決への投資というとリターンが少ないと思われるのですが、必ずしもそうではありません。また、一つひとつの案件の規模は小さくても、トータルでみると大きな貢献になるケースはたくさんあります。

例えば、バングラデシュでマイクロファイナンスを行うケースでは、村の女性たちに30〜40万円を貸して、ビジネスを支援しています。驚くのは、デフォルトが1%未満と低く、返済率がとても高いということです。

返済率が高いのは、借金をした人が踏み倒してしまうと、次に同じ村の人たちが借りることができなくなるというルールがあるから。コミュニティの信頼関係に基づく連帯責任を制度に落とし込んでいるから、借り手もいっそう真面目に対応するし、産業としても成り立っていく。



顧客との関係構築は、むしろ女性が得意


根本:働き方改革や女性活躍の推進にも取り組まれていますね。SDGsの「誰も取り残さない」という大原則に鑑みれば、女性にも機会を担保することは非常に大切です。
 
鈴木:そうですね。証券業界は男性の職場というイメージが強く、女性がなかなか受け入れられない歴史がありました。しかし、今はそんなことはありません。証券業界で活躍している女性はたくさんいます。

今、国内の企業を見渡して、女性活躍をうたわない業界はありません。もはや女性が活躍できる環境をつくるのは当たり前のことなのです。全人口の半分を占める女性たちが、ストレスを感じずに働き、働き続けてもらうための環境をどうつくるか。女性は出産などのライフステージの変化があるため、男性に比べてキャリア形成の上ではハンデがありますが、その分のサポートをしてはじめて男性と対等な立場に立てると言えるし、サスティナブルな業界作りのために重要だと思います。

また、証券業界を取り巻く環境も変化しています。いまは「儲ける」だけでは足りなくて、「どうやって利益を上げるのか」が重要。私が若い頃は、お客さんに積極的に売買を勧めることのできる人がトップでしたが、いまはそうではありません。いかに新規のお客さんを獲得して、そこから資産形成のための新たな取引につなげていける人がよいセールス(営業担当者)という時代になってきていると思います。

そういう意味で、証券業界は、人とじっくり関係性をつくる仕事が得意なことが多い女性が働きやすく、活躍できる環境は整っているのではないか。その割に、現状では女性の功績がなかなか評価されていないように感じていますし、働き手が減少する中、業界全体として女性の活躍を推進していく必要があると思っています。
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文=野口直希

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