アスプレイ・インターナショナル・リミテッドの会長を務めるジョン・リーガスは、1994年にニューヨークで設立されたヘッジファンド、リアルアセット等、多様な投資資産運用管理に携わる「サイエンス・グループ」の創業者兼CEOでもある。ファイナンシャルからラグジュアリーブランド運営という新たなフィールドへ着手し12年を迎えた彼に、現在の考えを訊いてみた。
─「アスプレイ」という、200年以上の伝統を持つ英国のブランドの経営に携わるにあたり、改めて考えられたことはなんでしょう?日々、世界は大きく変っています。同様に、消費者の嗜好も変化し、ラグジュアリーのコンセプトも変り、技術も変ってきている。「アスプレイ」のように200年以上続いたブランドを、次の200年も続いていくようなブランドに育てていくには、その変化に対応しながら追求し、現代的な感覚を兼ね備えていかなければならない。そして、常に先を見て、新しいものをお客様に提供していかないといけないと考えています。
─伝統とモダンの融合が成功するには、何が必用だと考えていますか?伝統とモダン、双方のバランスを取り続けることは必須です。伝統技術は大切にしながら、デザインやコンセプトには新しさを取り込む。たとえば「アスプレイ」のマスターピースでもあるスターリングシルバーのシェーカーは、1930年のアールデコのデザインをベースに、発売当時から変わらぬ製法で作られています。そこに車やロケットなどのチャームをあしらい、モダンなエッセンスをプラスすることで、若い世代の顧客からも大変満足を頂いています。
このように、伝統とモダンがバランス良く共存するプロダクトを提供すべく、日々試行錯誤しています。クラフトマンシップの維持に関しては、「アスプレイ」というブランドで働くことがひとつのステイタスにもなっているので、技術を継承させていく若い人材にも困ったことはありません。同時に、世界中から優れた技術者を集めるプログラムも実施しています。
たとえば、ラピスラズリの産地で有名なアフガニスタンで、ラピスラズリのカッティング製法を指導し、現地で「アスプレイ」の製品製作の一端を担ってもらっています。今回、日本の伝統技術である「印傳屋」さんの印伝の技法をバッグに取り入れたのも、同じプログラムの一環です。モダンな要素を取り入れるのと同時に、様々な国の文化とコミュニケーションを取ることも大切なことだと考えています。
─以前より、ファイナンシャルの世界でご活躍されていますが、全く異なるジャンルのラグジュアリービジネスに関わることになり、改めて感じることはありますか?一見違うようで、ファイナンシャルもブランドビジネスも、ビジネスという面では同じなのです。どちらのビジネスも、お客様に付加価値をどう提供するかという共通点があります。ファイナンシャルではお金をお返ししますが、ラグジュアリービジネスは、エモーショナルをリターンします。「アスプレイ」に関しては、古い商品でも、買った時より価値が付き、オークションに出せば利益も得られるので、そういった意味では投資としても機能しているかもしれません。
「アスプレイ」は、いわゆる広い市場を持つブランドビジネスとは少し異なるブランドです。皆に知られているブランドではありませんし、大きなロゴも付いておらず、持っていることを見せびらかすブランドではありませんが、所有することに喜びを感じられるブランドだと思います。
店舗も、イギリスを基盤に、スイスやアメリカ、日本と3つしかありませんが、わざわざ、そこにお客様がいらっしゃることに特別な意味を感じてくださるブランドなのです。“リミテッド”であるというところに意義があるのです。
─お気に入りの「アスプレイ」商品はありますか?移動が多いので、キャリーバッグが使いやすく、ルックも洗練されているので気に入っています。「ジ・アスプレイ・アンセウス・アールツー」の複雑機構式腕時計も愛用しています。ブランドの意匠を肌で感じることができる名品です。