閉じる

世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

Clear.Inc 生駒龍史代表取締役CEO

縮小傾向が続くものの、依然として3兆5000億円強の規模を誇る酒類市場。その種別構成は年々多様化し、チューハイやカクテルなどリキュールを使った低アルコール飲料や発泡酒、ワインなどがそのシェアを伸ばしている。

その影響を受け、大きく比率を減らしているのは、ビールと日本酒(清酒)だ。

国税庁が発表した酒レポート(2018年3月)によると、各酒類の販売(消費)数量構成比率を1989年と2016年とで比較すると、ビールは71%から31.3%に、日本酒は15.7%から6.4%と、いずれも半減以下となっている。

とりわけ日本酒は焼酎と並んで「国酒」と称されるものの、厳しい市場環境に置かれているように見える。

「『日本酒業界が苦境に立たされている』というのは、半分正解で半分は間違っている」と話すのは、日本酒事業に特化したスタートアップ企業Clear Inc.の生駒龍史CEOだ。

Clear Inc. は今年10月31日にKLab Venture Partnersや個人投資家などから総額7500万円を資金調達したと公表し、今まさに攻勢をかけようとするスタートアップ。

同社が7月に立ち上げたプレミアム日本酒ブランド「SAKE100」は、第1弾商品「百光」のクラウドファンディング先行発売で目標額を大きく上回る390万円を集めた。

「VCへのプレゼンに日本酒を持ち込んだのは、おそらく僕が初めてなんじゃないですか(笑)。実際に飲んでもらった方のほとんどに出資したいと言っていただいた。投資家の方にも『日本酒市場は“爆発寸前”だね』とおっしゃっていただくんです。まさに夜明け前というか、日本酒が求められる機運は高まっています」


「SAKE100」の第1弾商品「百光」

高付加価値・高価格の日本酒が増えてきた背景

その言葉には理由がある。日本酒全体の出荷量は1973年の約177万リットルをピークに減少し続けているものの、ここ10年は漸減傾向にあり、中でも吟醸酒や純米吟醸酒、純米酒など「特定名称酒」と言われる日本酒は6年連続出荷量を伸ばしている。

「『たくさん飲めて酔えればいい』というような感覚ではなく、『美味しいものを少量ずつ楽しみたい』というニーズがますます高まり、日本酒に付加価値が求められている」と生駒氏は語る。

近年、新たな日本酒の味わいを提案する蔵元に注目が集まり、「獺祭」「新政」「而今」など人気銘柄が数多く登場していることは、その現れとも言えるだろう。各地で催される利き酒会や試飲会、飲み歩きイベントは盛況を博している。

また、全量純米大吟醸を標榜する楯の川酒造が精米歩合わずか1%の「光明」を発売。黒龍酒造が業界初となるメーカー入札会を主催し、最高級の純米大吟醸酒を氷温熟成したヴィンテージシリーズ「無二」を出品して10数万円から50数万円の小売価格で取引されるなど、いわば「プレミアム日本酒」と呼ばれるようなカテゴリーの日本酒が次々と商品化されている。

国内最大規模の市販酒品評会「SAKE COMPETITION」には2016年に「Super Premium部門」が新設され、四合瓶(720ml)で1万円以上の日本酒が審査対象となり、2018年は48銘柄が出品されている。

生駒氏は高価格帯の日本酒が増えてきた背景をこう語る。

「これまで日本酒流通のメインチャネルは飲食店でした。客単価3000〜4000円に設定すると、おのずと一升瓶の小売価格のボリュームゾーンは3000円前後に決まってくる。蔵元はその中でいかにコスパの高い酒を造るかに注力せざるを得なかったわけです。それが、顧客のニーズが多様化し、ECをはじめとした直販も増えていく中で、『より良いものに価値を見いだす』顧客が増えてきた。彼らは特別な体験には投資を惜しみません。そういった方が手に取るような日本酒が少しずつ造られるようになってきているのです」

特別な体験をもたらすような日本酒の新たな付加価値を考えるうえで、同じ醸造酒であるワインはひとつの指標となりうるだろう。これまで日本酒の価値を決めるのは、酒造好適米(酒米)の希少性や米の磨き度合い(精米歩合)、仕込み方など、いわゆるスペック重視の基準が主なものだった。

一方、ワインはワイナリー(醸造所)やテロワール(土壌)、醸造年度など、物語性やヴィンテージにも価値が置かれ、オークションにおいて高値で取引されている。

「ワインがこれだけ全世界で受け入れられているのは、価格帯も価値基準も幅広く、多様性があるからこそ。安くてうまいデイリーワインもあれば、極上の体験が得られるようなヴィンテージワインもある。それこそが文化としての深みとなっているんです。日本酒もそれに倣う部分は大いにあると思います」と生駒氏は指摘する。

文=大矢幸世 写真=山田大輔

PICK UP

あなたにおすすめ

合わせて読みたい