そんななかで、地方の小さな私立大学が、アフリカなど世界のエリート留学生を集めている。国内ではなく、むしろ世界から注目されているこの学校を紹介したい。
「ABEイニシアティブ」が追い風に
異国情緒あふれるレトロな街、神戸の北野エリアに、大学院修士課程だけを持つ「神戸情報大学院大学(KIC)」がある。2013年にICTイノベータコースが創設されると、5年間に173人の学生が在籍している。
驚くべきことに、そのうちの97%が留学生だ。それも、日本政府が学費や生活費を支給している国費留学生が90%を超える。そして、そのほとんどがアフリカからの留学生で、116人と3分の2を占める。彼らはみな、将来、政府や民間企業でリーダーとしての活躍が期待されている若者たちだ。
このコースには、大学や研究機関の経験しかない教授はいない。教鞭をとるのは民間企業などの最前線で活躍した人たちだ。カリキュラムは全て英語で行われ、学生をサポートする事務員も英語が堪能。また、最近でこそ「ICTで社会課題を解決」という考え方に注目が集まっているが、これを2013年の開設当初から掲げていた。
ところが、初年度に集まった学生がわずか5人。新興大学院大学の新設コースにとっては、厳しい状況が待っていた。ただ、いま振り返ると、その5人の中にルワンダからの留学生が2人含まれていた。これが実は暗闇の中の光明であった。
2013年6月、横浜で開かれた第5回アフリカ開発会議(TICAD V)で、安倍首相が、「ABEイニシアティブ」を発表した。首相自らの名を冠した、アフリカの若手人材を育成するという開発援助の新たな方針である。5年で1000人の若者を日本の大学で育成するという計画だった。
これが、KICに猛烈な追い風となった。アフリカ諸国から注目され、ABEイニシアティブの学生の約1割、5年で約100名の留学生が、国内ではまだ無名だったこの大学に集中することになる。留学生が選んだのは、東京大学、京都大学、早稲田大学という有名大学ではなかったのだ。