ビジネス

2018.11.28

これからの学びに必要な「3つのボーダレス」 #NEXT_U30

Selan代表取締役 樋口亜希


取材がきっかけでサービスがパンク。起業の暗黒時代



──起業されてからは順風満帆でしたか?

ぜんっぜん!特に1年目は辛かったですね。最初1人で立ち上げたのでとにかくやることが多すぎて、毎日自分が何をしているか分からず、実は、当時の記憶があまりないんです(笑)。

その後、テレビや雑誌に取材していただいたことで、サービスが少しずつ認知されるようになり、お客様から大量のお問い合わせをいただいたことがありました。当時は社内のメンバーが4人で先生が30人程度だったので回らなくなって。

やってもやっても終わらないタスクにチームのみんなが疲弊してしまって、ミスが多発しお客様にご迷惑をおかけして、私がお客様の玄関先で謝罪することも多々ありました。

「より多くの幸せを作るためにこの事業を始めたのに、幸せを作るどころか、関わる人みんなを不幸にしているのではないか」

そう思うようになり、何のために会社を始めたのだろうと毎日情けない思いでいっぱいでした。

一方で、顧客からの問い合わせは増え続けていました。メンバーの信頼を回復することが最優先だと思い、サービスの新規受付を6カ月間停止する決断をしました。正直、止めるのは怖かったです。でも土台を固め、いずれまたパワーアップして戻ってくることをウェブサイトに載せ、サービス大改善の期間に入りました。

──そうだったんですね……。

そこから、私自身深く反省し、もう一度ゼロベースで事業の在り方、チームの在り方を考え直しました。その後、今のCOOがジョインしてくれて、少しずつ立て直しました。その中で、COOが教えてくれた、あるアフリカの民族の言葉が大きな転機となりました。

「早く行きたいなら一人で行きなさい。遠くまで行きたいなら、みんなで行きなさい」

この言葉を聞いたとき、はっとさせられました。会社は短距離走ではなくマラソンなんだ。自分一人がスピードを飛ばすのではなく、どうやって「みんなと一緒に走れるか」を考えないといけない。

その後、事業とチームは順調に成長し、今はビジネスサイドで関わっている人が10名、先生が約300名のチームになりました。

起業してからの3年半、「チームと事業のあり方」について、チームメンバーから多くのことを学ばせてもらいました。今も日々勉強中です。

もっと「多様な価値観を自分で受け入れていく」経験を

──「多様な価値観を受け入れ、人生の選択肢を増やそう」という樋口さんの考え方は、とても素敵だと思います。現在「多様性」は世の中でも話題のキーワードだと思うのですが、それに対して思うことはありますか?

私が最近すごく思っているのは、「多様性」という言葉をもう一歩自分ごと化して考える必要があるのかな、ということです。

──自分ごと化して考える?

最近は、多くの企業や教育機関に「グローバル推進室」や「ダイバーシティ推進室」ができ、「ダイバーシティ」という言葉がだいぶ浸透してきました。私は、こういった部隊が率先して、多様性について発信していくと同時に、個々人がちゃんと考えられるようなマインドセットを持つことも、非常に重要だと思うんです。人から言われた「理性のダイバーシティ」ではなく、自分の中に組み込まれた「感情のタイバーシティ」を養っていく必要があると思っています。

そのためにも、幼少期の教育の重要性はどんどん大きくなっています。幼い頃に多様な人と実際に触れ合い、「自分で主体的に受け入れていく」経験が一番なのではないかなと思っています。

──多様な価値観を受け入れることが当たり前になっていくと、選択肢が増えていき、次は「どうやって選ぶのか」という判断軸を養うことが大事になってくると思います。樋口さんの中で、何かを「選択」するときの基準があれば教えてください。

何かを「選ぶ」ことよりも「捨てる」ことのほうが重要だと思っています。

「何をやりたい?」と聞かれたら全部やりたいように見えてしまうけれど、自分が嫌なもの、苦手なものなら結構明確だと思っていて。だから私は、「ちょっとでも違和感があるもの」は、基本的に手放すようにしています。

──そういう判断軸になったのはいつからですか?

会社を辞めたばかりのときは、なんでもかんでもチャンスだと思ってとにかく動いていました。でも、起業をして会社を経営していく中で、私が何かに集中しなかったら何の結果をもたらせないことに気付きました。

なので、本気でやっていることは本気だと、ちゃんと言うようになりました。起業してからはあまり多くのことを求めずに、「心に響くもの」を大事にするようにしています。その結果、「自分の大事なもの」がより明確になった気がしますね。
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文=明石悠佳 写真=小田駿一

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