2007年、当時としては世界で最大かつ最も野心的なレンタル自転車サービスとしてパリで始まった前身のプログラムは、スペインとフランスの合弁企業スモベンゴの運営下で数々の問題が発生し、利用者数が29万人から21万9000人までに大幅に減少している。
新たなプログラムでは、2019年9月から1万台の電動自転車を導入し、最大2万台の稼働を目指している。市民に対する長期レンタルを基本とし、月額40ユーロ(約5200円)で貸し出す。雇用主からの補助により、月額料は半額となる場合もある。
1億1100万ユーロ(約143億円)が投じられる同プロジェクトの目的は、パリ市民に対し自転車通勤を促すこと。パリ首都圏での全交通手段のうち自転車の占める割合は現時点で1.6%に過ぎない。電動自転車はライムやバードが提供している電動キックボードと比較して本体価格はかなり高いが、価格が妥当なものであれば交通手段としての需要はあるとみて、パリ市は導入を推進してきた。
現在フランス国内で利用されている電動自転車の数は約25万台で、1台あたりの価格は1500~2000ユーロ(約19万3000~25万8000円)。これに対して従来型の自転車の台数は270万台だ。パリ当局としては、市民にまず試乗してもらい、ゆくゆくは個人で購入してくれることを期待している。
自転車使用の推進は、人々が住む都市を変えるひとつの要素に過ぎない。電気自動車シェアや交通公共機関の改善といった取り組みと並び、電動自転車は“アメ”となるが、一方で徐々に自家用車規制を進める“ムチ”的な政策も必要だ。
例えば、車両規制区域の拡大、道路の有料化、路上駐車の禁止、さらに自転車・キックボード専用レーンの整備などを進めれば、もともと自動車利用を促進するような構造で作られている都市部において、自家用車の使用はもはや歓迎しない方針を明確に打ち出すことができる。都市部の道路にいくら自転車やキックボードを投入しようとも、自動車が幅を利かせる街中で自分の命を危険にさらしながら利用しなければならないようでは、改革はすぐには達成できないだろう。