束の間でも「今、ここ」で生きる歓びを ワケありな二人の逃走劇

『歓びのトスカーナ』主演のミカエラ・ラマッツォッティ(左)、ヴァレリア・ブリーニ・テデスキ(右、Photo by Elisabetta A. Villa/Getty Images)

大阪府堺市の更生保護施設「宝珠園」が先月、ギャンブル依存症の克服に向けた取り組みを始めた。依存が疑われる人は全国に約320万人いると言われており、カジノの導入で増えるのではないかと見られている。

民間の社会福祉法人やNPO法人などが運営する更生保護施設は、全国に103カ所あり、出所後に家族や公的機関の援助を受けられない人を対象に、宿泊や食事の提供、就労指導・助言などを行う。

更生保護施設の入居者は男性が8割を占めるが、例えばアルコール依存症は近年、女性の間で広がりを見せている。9月初旬に酒気帯び運転でひき逃げ事件を起こして逮捕された吉澤ひとみも、アルコール依存症が疑われており、精神安定剤も常用していたようだ。

女性に多く見られるそのほかの依存症は、買い物依存症やDVを含む人間関係への依存症。ストレスからそれらへの依存度が深まり病を悪化させ、時に人生を踏み外させる。

『歓びのトスカーナ』(パオロ・ヴィルズィ監督、2016)が描いているのは、そんな施設に収容された二人の女性の冒険だ。原題は「La pazza gioia(狂気の歓び)」。イタリアのアカデミー賞であるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を5部門で受賞している。

“要監視”なふたりのエスケープ

トスカーナ地方の風光明媚な丘の上。心を病んだ女性たちが社会復帰のための支援を受けている診療施設の中で、ひときわ目立っているのがベアトリーチェ(ヴァレリア・ブリーニ・テデスキ)だ。

長い金髪に胸元の開いたセクシーなドレスを纏い、のべつまくなしに喋っている。どうやら過去に裁判沙汰になるようなトラブルをいくつか起こしており、薬を処方された上で外出は禁止されている状態。

ある日、若い女性ドナテッロ(ミカエラ・ラマッツォッティ)が入所してくる。痩せた体に幾つもタトゥーを入れ、ボロボロのジーンズを履いて表情の暗い新入りに、ベアトリーチェは興味津々で急接近。鬱陶しがられるのにもめげず、施設側に要求して無理矢理彼女とルームメイトになる。

傍目で見ている分には面白いが、横にいたら相当疲れるであろうベアトリーチェの、キャラ立ちっぷりが凄まじい。入所間もないドナテッロに介護士を装って小芝居をしてみたり、庭作業では自分だけ日傘をさして女王様のように指示したり、いきなり夫や不倫恋愛の自慢話をし始めたり……。その言動は傍若無人で滑稽だが、基本的に陽気なので、どこか憎めない雰囲気が漂っている。

ちょっとウザいけれど悪い人ではないらしいベアトリーチェにドナテッロが慣れてきたある日、園芸店の作業のため半日ほど施設を離れて過ごした後、二人は迎えの車が到着する前に、やってきた反対方向のバスに乗り込んでしまう。

バスに向かってヒラヒラと派手なスカーフをかざしながら、ドナテッロの手をひっぱり、緑の斜面を駆け下りるベアトリーチェの全開の笑顔。つられて、自分も指笛でバスの運転手の注意を引きつつ走るドナテッロ。二人で規則を破りエスケープするんだという、共犯意識とスリルと自由への渇望が、この場面に満ちあふれている。

ここからドラマはロードムービー風となるが、要監視入居者である二人の、いつまで逃げられるのかわからない道中は危なっかしい。久々に外界に出て早速ビールを飲み、増々ハイテンションのベアトリーチェに対し、ドナテッロは思い詰めた表情。その理由が徐々に明らかになっていく。

人にどう思われようが関係ない

ショッピングセンターで買い物をし、ナンパしてきた男の車に同乗して盛り上がり、すきを見て二人は車を奪い逃走。行った先は占いの館で、ここで、ドナテッロには幼い子供がいるが、事情があって隔離されていることがわかる。だが空気の読めないベアトリーチェは、占い中に勝手に割って入って喋り出す始末だ。
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文=大野左紀子

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