オンライン診療が医師と患者の意識を改革する

武藤真祐

今年初め、インテグリティ・ヘルスケアの武藤真祐は、ある会合でひさしぶりにサントリーHD社長の新浪剛史に会った。

武藤の会社が開発したオンライン診療システム「YaDoc(ヤードック)」の話に新浪の目は輝き、「弊社でも活用したい」と申し出る。そこからは迅速だった。3月のキックオフからわずか4カ月後の7月、「健康経営」を謳うサントリーHDは「社員とその家族が利用できるオンライン診療システムを10月より導入する」ことを発表する。

まず、社員に対しては、40歳以上の社員のみならず、健康診断で「生活習慣病予備群」とされた40歳未満の社員に対しても、オンラインでの保健指導を行う。社員の家族は、遠隔地に住む介護の必要な後期高齢者が対象で、タブレット端末などのビデオチャットを使用し、在宅でかかりつけの医者に診療してもらえる。前者の狙いは早期に保健指導に取り組むことで重症化の予防を図ること。後者は毎年約10人が親の介護を理由に離職し、9割の社員が介護に不安を感じていることに対するケアだ。

「YaDoc」を開発したインテグリティ・ヘルスケアは、前出の武藤が会長を務める、診療支援ベンチャーである。

「サービスのメニューはすでにいろいろと考えていたんです」と武藤は言う。

「ビジネスマンが平日病院に行く時間を割くのは大変なことで、オンラインで医療を受けられるというのは強烈なニーズがある。ただ、ニーズに応えるには個人の努力では限界があって、会社や自治体など大きな枠組みの中でやるほうがいいと思っていた。とはいえ、新浪さんのスピード決断には正直驚きました」

効率化よりも医療の質を上げるため

「YaDoc」には「モニタリング」「オンライン問診」「オンライン診察」の3つの機能が搭載されており、患者はスマートフォンやタブレットで自身の医療・健康情報等の記録、問診への回答、ビデオチャットによる診察を行うことができる。

武藤がオンライン診療で目指しているのは「効率化以上に、医療の質を上げること」だ。それは当然、武藤のキャリアと深く関わりがあった。

武藤は1996年より循環器内科として心臓カテーテル治療や救急医療に取り組んだ。やりがいのある日々の一方、過酷な労働環境に加え、医師と患者の信頼関係が薄れて医療現場が疲弊していることに胸を痛め、「世界最高峰の問題解決スキルを習得するため」、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社する。2年後の2010年、東京都文京区に「医療法人社団鉄祐会祐ホームクリニック」を設立。その後は在宅医療に従事してきた。
次ページ > 武藤の目に映った医療の課題

文=堀香織 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事