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2018.11.22 11:00

「積立金貧乏」のマンションが多発する理由


国交省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表しており、それによると、建物の階数や規模などによりばらつきはあるものの、15階・5000平米未満のマンションで専有面積平米あたり218円、5000~1万平米で202円、1万平米以上なら178円程度を平均的な目安としている。

平米あたり200円目安なら、例えば70平米のマンションなら適正な毎月修繕積立金額は1万4000円。この水準の積立金を入居直後から続けていればおおむね問題ないというわけだ。

備えないまま、高騰する工事価格

とはいえ、ガイドラインはあくまで指針に過ぎず、強制力もない。現在でも多くの新築マンション販売現場では、積立金方式は「段階増額積立方式」または「一時金徴収方式」であり「毎月均等」としているところはほとんどないのは前述したとおりだ。

またそもそもこのガイドラインは、2011年に出されたもの。2013年の夏以降、消費税増税前の駆け込み受注や東京五輪の決定、アベノミクス、東北の震災復興特需などと合わせ、建設工事の人材不足もあり、2018年夏時点における分譲マンションの大規模修繕工事の価格相場は、マンションの規模や形状・構造などによっても異なるが、概ね20~30%程度上昇している実感だ。

2013年春ごろまでは、外壁が総タイル張りで50~100戸程度の規模の場合、大規模修繕工事で建物に関わる一般的な工事をすべて行った場合、戸あたり100万円程度を見込めば、特別な事情がなければ大きく不足することはなかった。しかし、今現在同規模のマンションにおける見積価格では、戸あたり120円~140万円程度の金額が提示されることが多く、30戸程度の小規模なマンションでは、200万円を超える見積が提示されることも少なくない。

わずか数年の間にこれほどまで価格高騰するとは誰にも予測できず、対策は積立金の増額しかない。また消費増税14年には消費税が5%から8%へと上がっており、19年10月には10%への上げも想定されている。

こうしたからくりに気付き、修繕積立金方式を変更するなどで、マンションの持続可能性を担保しようとする管理組合は少数派だ。このような取り組みをしているマンションと、そうでないマンションとが今、中古住宅市場において、同じ価格水準で売買されている。

修繕積立金が潤沢で今後値上げや借金をする必要がなく、したがって建物の寿命が物理的にも経済的にも優れているマンションと、修繕積立金が枯渇し今後、値上げをするか借金をするか、あるいは何もできずに陳腐化し、寿命も短くなるだろうマンションが、本来同等の資産価値を持ち得るはずがないが、これらが同列に扱われているのが国内不動産市場の実態だ。

連載 : 日本の不動産最前線
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文=長嶋修

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