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衰退産業といわれる日本酒業界にありながら、“革命児”“イノベーター”としてメディアに登場することも多い山本典正氏。「常にファーストペンギンでありたい」と語る先駆者の、酒造り・酒蔵マネージメントとは……。平和酒造の主要アイテムである「紀土」「鶴梅」がおこしたイノベーションから読み解く。


1.誇れる自社ブランドの創造

山本氏が東京のベンチャー企業から実家に戻ったとき、家業の酒蔵は生産の99%を安価な紙パック酒に充てていた。経営は微増ながら上向きだったものの、ピーク時の3割程度に売り上げが減少している日本酒業界に閉塞感を覚えていた山本氏は、より高価格で高品質なものを造ろうと決意。リリースまで3年かかったものの、主力商品となった「紀土」は国際的なコンペティションで金賞を受賞し、蔵の売り上げは10年間で約300%増となった。

2.大卒新卒を採用したチームづくり

酒蔵といえば冬の仕込みの時期に労働者を集め、夏は解散するという季節雇用が一般的だったが、山本氏は大卒の、それも新卒を通年で雇用。新卒は毎年1〜2人採用の狭き門だが、ときに2000名超の応募があることも。長期にわたって人材を育成できる組織を目指している。現在の平均年齢は29歳。ちなみに新卒給与は22万円ほどであり、これは他の酒蔵に比して破格の厚待遇である。


平和酒造の蔵人たちの平均年齢は29歳と、酒蔵としては極めて若い。これも「ものづくりの喜び」を大切にする山本氏によるチーム組成のたまものだ。


3.データ・知識・技術は全員で共有

 
従来の杜氏だけが酒造りの意思決定権を持つワンマン型ではなく、全員がオーナーシップを持てるようなフラットなチーム編成で、酒造りに関わるデータ、知識、技術はマニュアルを作成して全員で共有。全社員が醸造に携わり、また催事では接客も担当。“ものづくりの喜び”を大切にする同蔵にあって、直接消費者の声を聞けることが大きなモチベーション向上につながっている。

4.酒蔵を通年で有効活用
 
日本酒の製造において閑散期となる春〜夏を梅酒などのリキュールやクラフトビールの製造に充てる。このバリエーション追加により、社員の通年雇用が可能に。

5.地の不利は知恵で乗り切る

和歌山県は決して日本酒製造に最適な土地ではない。酒造りには温暖すぎる気候は仕込み水を凍らせて“仕込み氷”として使用したり、湿気によるカビは徹底した清掃で対策。また東京からアクセスの悪いロケーションについては、SNSの発信やYouTube動画を定期的に公開することでファンとのコミュニケーションを図っている。

6.日本酒の価値転換を図るイベント展開
 
いまや頻繁に行われている日本酒生産者による共同イベントも、その先駆けは山本氏。特にAOYAMA SAKE FLEAは東京・青山を舞台にカジュアルな雰囲気で日本酒をさまざま試せる機会。日本酒未経験者も気軽に酒を楽しめるため、新たな市場創成の場となっている。ちなみに平和酒造のメインターゲットは日本酒をあまり飲んだことがないというポテンシャル層。これにより過当競争を防ぎ、常にブルーオーシャンを狙えるのだと山本氏は言う。

7.海外のSAKEブームを牽引

「いま一番可能性を感じている」というのが海外市場。オランダ、中国、アメリカなど14カ国で販路を確立。「ザ・ワールド50ベストレストラン」に名を連ねる名店でオンリストされることでSAKEの認知度向上に大いに貢献している。

8.異種コラボレーション

今年、「紀土」とならんで看板商品である梅酒「鶴梅」が、「キットカット」(ネスレ日本)とコラボレーション。中田英寿氏プロデュースのもと「キットカット 梅酒 鶴梅」として発売されたことは平和酒造のエポックメイキングな出来事となった。最近は堀江貴文氏率いる「WAGYUMAFIA」とのコラボイベントも話題に。旧来の日本酒の型にはまることなく、新しいことにチャレンジし続けるのも「いつもファーストペンギンでありたい」と語る山本氏らしい取り組みだ。


左より、主力商品である日本酒「紀土」(左)と梅酒「鶴梅」(右)


HEIWASHUZOU Chronicle

1928
安土桃山時代に創建された寺「無量山超願寺」から、酒好きだった山本保が酒造業へ転業

1952
第二次世界大戦中の休業を経て、これからは「平和な時代で酒造りをしたい」との思いから「平和酒造」と命名

2004
4代目となる山本典正氏が東京のベンチャー企業から家業へ参画

2005
現在の看板商品のひとつである梅酒「鶴梅」発売

2007
看板商品である日本酒「紀土(キッド)」発売

2014
「紀土」が国際的な酒のコンペティション「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」において(2015年も連続)金賞受賞

2016
クラフトビール「平和クラフト」製造開始

2018
「キットカット」とのコラボ商品「キットカット 梅酒 鶴梅」リリース





やまもと・のりまさ
◎平和酒造代表取締役専務。1978年和歌山県海南市生まれ。京都大学経済学部を卒業後、東京の人材系ベンチャー企業を経て、家業の酒蔵経営に携わる。大手酒造メーカーからの委託生産や廉価な紙パック酒に依存していた蔵の収益構造に危機感を覚え、日本酒業界にあっては革新的な組織づくりと自社ブランド造りに尽力。著書に『ものづくりの理想郷』(インプレス)、共著に『メイドインジャパンをぼくらが世界へ』(dZERO)。

Promoted by 平和酒造 / 文 = 秋山 都 / 写真 = 菅野裕二

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