ファインバーグの変革戦略の3つのステップ
組織の方向転換を図るための最初のステップは、組織の7000人の従業員にとって指針となる新たな理念を作り、伝えることだった。その新たな理念とは「健康を改善し、苦しみを緩和して優しさを実践することで、1度に患者1人ずつ人類を癒す」だ。
ファインバーグによれば、理念の中核に「優しさ」を置いた米国の学術機関付属病院はUCLAが初めてだった。中には、この方針をすぐに受け入れられない人もいた。病院が行っている治療の複雑さを考えると、患者の満足度を上げることは不可能だとも言われたが、ファインバーグはそれでもひるまなかった。
2つ目のステップは、有言実行だ。ファインバーグは理念を伝える作業を人事部やマーケティング部に任せず、この理念を自分の言葉と行動で一貫して伝え続けた。ファインバーグは全ての議論や会議で「患者の顔」を示した。月次リーダー会議を数字や財務成績で始めることはなくなった。ファインバーグは全ての会議の冒頭で、手紙やフィードバック、さらには実際に患者に参加してもらって患者の物語を共有した。「ストーリーテリングはリーダーシップの鍵となるツールだ」とファインバーグは語る。「私は自分のことを、最高ストーリーテリング責任者だと考えている」
3つ目のステップは、全従業員が指針として従うことのできるコミュニケーションの枠組み作りだった。CICAREと呼ばれるこの枠組みは、患者とその家族に素晴らしい体験をしてもらうための具体的な行動を詳細に説明している。ファインバーグとそのチームがUCLAで開発したこのコミュニケーション手法は現在、スタンフォード・ヘルスケアなど世界の一流医療機関で活用されている。
米CNBCテレビによると、グーグルでファインバーグは人工知能(AI)部門長の下で働くこととなる。私が以前、コラム執筆のために取材したAI専門家の李開復は、未来を主導するのに最も適したリーダーは創造的で共感力があり、チームワークを生み、効果的なコミュニケーションができる人物だと語った。ファインバーグはグーグルの医療分野での取り組みを率いるに当たり、素晴らしい人選と言えそうだ。
グーグルの医療戦略をファインバーグがどのように組織するのかはまだ分からないが、ファインバーグが1月に就任するとき、自分の仕事にどのようにアプローチするのかは分かっている。ファインバーグは人々の意見を聞いて回り、自らのビジョンを明確に一貫して伝えるだろう。そして最も大事なこととして、人間がアルゴリズムを支えるのではなく、アルゴリズムが創造者である人間を支えるのだということを皆に思い出させてくれるだろう。