ビジネス

2018.11.16

知的障害者が造るワインに、人々が酔いしれる理由

ココ・ファーム・ワイナリーのブドウ畑


働く喜び、役割のある幸せ

現場を支えるスタッフは、技術を持つ上に個性的。なじみのない足利にアメリカからやってきたブルースさんは、園生と言葉が得意でない同士、ボディランゲージをして一緒に働き、技術を伝えました。他に、大学で醸造を学んだ人、畑で体を鍛え上げる人、タイプの違うスタッフがいます。都会のブラック労働に傷つき、転職してきたソムリエさんの話にも引き込まれました。ワイナリーの社長は園生の家族でもあり、きれいごとではない思いを聞きました。

障害者に期待し、時にはぶつかり合い、励まされてきたスタッフの話から、「働く喜び」「役割のある幸せ」は大事だと感じました。スパークリングワインを造る過程でビンを少しずつ回す作業や、醸造したワインのビン詰め、ブドウ畑の手入れなど細かい仕事は、障害ある人の集中力が生かされています。

全員が花形のワイン造りで活躍するわけではありません。障害の重さや適性もあり、食事の支度や洗濯など家事が得意なメンバーもいれば、「畑で風に吹かれてカラスよけをする番」も。年齢を重ねて仕事ができなくなっても、愛されるという役割があります。

能力生かして品質向上

ワイナリーは秋の収穫祭だけでなく、どの季節に訪ねてもパワーを感じます。冬の畑には次のシーズンに向けて準備する人たちがいますし、新緑の季節には敷地内のカフェから見える風景が美しい。このカフェはテレビや雑誌で紹介される際に、もはや「障害者のワイナリー」という前置きがいらないようです。

筆者は様々なジャンルの商品・サービスを提供する福祉事業所を取材していますが、障害者が関わるものこそ品質が大事です。「かわいそうだから」という理由で選ばれたら本意でないでしょう。ココでは多様な人材が共に「こころみ」、試行錯誤を繰り返して障害者もそうでない人も能力を生かす働き方ができています。

その積み重ねで、国際線ファーストクラスやサミットで採用される品質になり、収穫祭に足を運ぶお客さんがいて35回、続いてきたと思います。収穫祭で取材したお客さんも「障害者が造るというのは関係なく、おいしいから来る」「福祉として貢献するわけじゃない。毎年、楽しみにしている」と話していました。


 ブドウ畑の頂上で楽しむワイン(左)、できたてのワイン(右)(著者撮影)

文・写真=なかのかおり

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