「必要なのは良い打算」カミングアウトは必ずしも正解とは言えない

日本文学研究者、国文学研究資料館長 ロバート キャンベル


杉山:それを徐々に変えていくためには、ロールモデルが欠かせないと思っています。

いまの日本ではトップアスリートや著名なアーティストなど、若者が憧れる人の中にLGBTをオープンにしている人がいませんよね。

カミングアウトを簡単に勧めることができないのは同意ですが、できる人から前に出ていくことで、カミングアウトしやすい雰囲気がつくられてきたのが昨今です。

いまはロールモデルがいないからこそ、オネエキャラや水商売、あるいは「辛くて苦しい性同一性障害」だけがメディアを通して目に入るLGBTになってしまう。

彼ら、彼女らがいけないのではなく、それだけではない様々な分野で活躍している姿がもっと見えるようにならなければならないはずです。

今回のロバートさんのカミングアウトは、そのきっかけの一つなのではないでしょうか。

キャンベル:ロールモデルはとても大切ですよね。彼らのかっこいい姿だけでなく、時には転けてみたり、普通の生活を送っているところまで見えるようになればいい。それはまだ少し先かもしれませんが……。

杉山:未だにLGBTは大人のベッド上の話だと勘違いしている人がたくさんいます。これは性行為の話ではなく、アイデンティティの根幹に関わる話です。

ただ、言葉で説明するだけではなかなか理解してもらうのが難しいのが現実です。そんな時は一人の人間としてコミュニケーションをしっかりとっていくことが大事だと思っています。

時には一緒に飲みに行くのもよいかもしれません。とにかく顔を合わせて話すことによって、肌感覚で理解してもらえることがあります。

LGBTに全く理解のなかった年配の男性と何度か飲みに行くうちに、「正直いまでもLGBTのことはわからないけど、お前とは仲良くなったからな」と言われ、今では一番の理解者として活動も応援してくれるという嬉しい経験もありました。

キャンベル:アメリカでも人権を巡っていろいろ問題が起きていますが、マイノリティと呼ばれている人たちと社会の接触面を少しずつ増やすことで、受け入れられるようになってきました。

自分に関わりのない人たちのことなら悪く言えますが、LGBTが親戚にいると気づけば、そうはいっていられませんよね。

杉山:接触面を増やすためには、いろんな時間軸で触れ合う機会が生まれるといいと思っています。

僕たちは年に一度、LGBTのパレードを開催していますが、それとは別にLGBTがスタッフとして働く飲食店も経営しています。特別な日だけでなく、日常的に接していれば、彼らのいろんな面が見えるようになる。

まだまだ苦しい現実もありますが、「なんでわかってくれないんだ!」というだけではなく、嬉しい、楽しいといったポジティブな時間を共有することで、LGBTに対するイメージを変えていく。

いろんなやり方で、社会とLGBTの接点を増やしていきたいですね。

連載:LGBTからダイバーシティを考える
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文=野口直希 写真=小田駿一

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