「必要なのは良い打算」カミングアウトは必ずしも正解とは言えない

日本文学研究者、国文学研究資料館長 ロバート キャンベル


カミングアウトは必ずしも正解とは言えない


 「カミングアウトすることで精神的負担が軽減される人も多いはず」と杉山文野

キャンベル:この機会に、僕と似た境遇の方、特に若い方にメッセージを送りたいんです。それは、「打算的にカミングアウトをしていいんですよ」ということ。

日本では「打算」という言葉はとても悪い印象を与えます。計算して建前を並べるのではなく、ありのままの本音を打ち明けることこそが美徳だとされています。

僕自身もそれをわかっていますし、「打算的になれ」なんて滅多なことでは言いません。しかし、時間が経つごとにますます、「性的指向の公表に関しては戦略的になるべきだ」という思いが強くなりました。

僕は後悔していませんが、いま私たちが生きている現実というのは目の前だけでなく、未来にまで及ぶ潜在的な可能性や機会を奪いかねない。また周りの人を傷つけてしまうこともあります。僕がここまで打算の重要性を痛感したのは、おそらく人生で初めてです。

繰り返しますが、「良い打算」をしてください。

ありのままを公表しなければ、正直に生きられないことで罪悪感を覚えるかもしれない。両親や同僚に本当のことを言えないのが申し訳なくなるかもしれない。

しかし、それはワーストな選択とは限りません。「良い打算」なんです。公表したい人に水を差すわけではないですが、利害関係をよく考えた上で、カミングアウトのタイミングを判断してほしい。

もっと多様なロールモデルを

キャンベル:日本のネットでのLGBTに対する批判を見ていると、80年代のレーガン大統領時代でのゲイやレズビアンへのバッシングを思い出します。30年も前の言説が、反復されているように感じる。

当時は僕もまだ若く、それでひどく傷つけられたことはありませんが、周りには深いダメージを負った人がたくさんいた。そんな歴史があったのに、日本の一部では共有されていないなと思ったんです。

特に気になるのは、まだ大学生だったり、社会に出ていない、あるいは出たばかりで親戚や社会に対する振る舞いが固まっていない若者たち。どうしても、アメリカで悩んでいた人たちのことを思い出してしまう。

明るいニュースが多いヨーロッパやオーストラリアなどに対して、日本はまだ流れが滞っているという部分を感じますね。
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文=野口直希 写真=小田駿一

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