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明治維新150周年。正解の見えない時代である一方、空前の起業ブームである。とてつもないブレイクスルーを感じさせる時代でもある。この時代に一気に進化した投資のシステムが、現代の”維新”を狙う志士たちに力を授ける。

明治維新から明治初期にかけて金融や投資の仕組みが急速に整備され、イノベーターたちの挑戦を資金面でバックアップできるようになった。現代に維新を起こそうとしている“志士”たちを紹介したい。彼らは長く「常識」とされてきたスタンダードを打ち破るべく奔走する。その原動力とは──。


もう漏らさない 人類の排泄行為に「予測」革命を

人間にとって、食事と同時に、逃れられないのが排泄という行為である。明治維新を機に欧米化が進み、腰掛け式便器や水洗トイレが一気に広まり、衛生状態が向上した。そして現在、排泄の分野で革新が起きようとしている。
 
トリプル・ダブリュー・ジャパンの中西敦士代表取締役が追求するのは、テクノロジーの力で排泄を「予測」する世界。排尿予測デバイス「DFree(ディー・フリー)」を世に生み出した。小型のデバイスを下腹部に装着し、妊婦のエコー検診と同じ超音波を使用して膀胱の変化をキャッチ。専用アプリで、排尿のタイミングを知ることができる。
 
2017年から、介護施設などの法人向けに「DFree 排泄予測サービス」を始め、実証実験を含めて延べ約500の介護施設での利用実績がある。18年7月からは個人向けの「DFree Personal」もリリースした。
 
排泄の予兆は得てして突然訪れる。介護施設でも排泄ケアの負担は増す一方だ。「出るかも」のサインが、スムーズな介助による自立排泄を可能にする。
 
高齢者や子供でなくても、同様の不安を抱える人は少なくない。当の中西代表も、「漏らしてしまった」ことが開発の原動力になった。かつて留学していた米国で、引っ越しの最中に便意を催し、トイレを借りられず失禁してしまった。「エコーで数センチの赤ちゃんの姿がわかるなら、排尿・排便も予測できるはずだ」と始めた研究開発は苦労の連続。水やお茶を大量に飲んだりして、実験で排泄予測を繰り返した。
 
同時に資金調達に奔走。「発想は面白いけど、本当にできるのか」と言われるのは日常茶飯事。50社以上のVCに断られた。そんな中、日本政策金融公庫から16年4月と17年3月に資金を調達し、研究開発・量産化が加速した。中西代表は「無担保・無保証で融資を受けられたのは本当にありがたかった。公庫からの支援がなかったらDFreeは生まれていなかったし、生き残ることはできなかった。信じて融資や出資をしてくださった人がいたからこそ、ようやくここまで形にできた」と振り返る。
 
夢は大きい。人体への影響が少ない超音波の技術を使って、様々な臓器の病気や、予後を予想する可能性を模索する。究極的には「寿命予測」を目指す。「ヘルスケア分野の可能性は無限大。人間の生き方や、幸せという根源的な価値観を大切に、開発に取り組みたい」。


DFreeのデバイスとアプリ。下腹部にDFreeを装着し起動、スマホアプリを接続すると、排泄のタイミングを教えてくれる。

マイクロ波活用 工場を効率的な「電子レンジ」に
 
明治維新の頃、西洋で化学産業が勃興した。化学工場といえば広大な敷地に巨大な建物、立ち上る煙。実はこの光景、当時から根本的には変わっていない。そんな化学産業に大きな変革を起こそうとしているのが大阪大学発ベンチャーのマイクロ波化学だ。
 
電子レンジやレーダーなどに使われる電磁波の一種で、波長の短い「マイクロ波」を活用することで、より省エネルギーかつ省スペースで、効率的なものづくりを可能にした。
 
化学産業ではその勃興期から、外部から熱を加えるなどして間接的にエネルギーを伝達する方法が採られてきたが、マイクロ波を使えば内部から直接、特定の分子だけにエネルギーを伝えることができる。消費エネルギーはこれまでの3分の1、工場面積も5分の1にできるという。つまり、工場全体を電子レンジにする、というわけだ。
 
07年、吉野巌代表取締役社長CEOと、大阪大学大学院でマイクロ波化学の研究をしていた共同創業者の塚原保徳取締役CSOがたった2人で創業。吉野代表は大卒で三井物産に就職し、化学品を担当していたが、一念発起し退職、米国でMBAを取得した。「世界の化学産業を変えられる」マイクロ波の可能性に惚れ込んだ。
 
創業翌年のリーマン・ショック。VCを回ったが、新技術の説明は困難を極めた。あまりに難航し、外部調達を諦め自己資金を投じていた時期もあった。
 
そんな時、日本政策金融公庫から融資を受けることができた。「正直、嬉しかったですね。あの支援がなかったら潰れていた。そこから少しずつ資金が調達できるようになり、次のフェーズに入れた」。
 
その後、マイクロ波化学は12年に、第1号製品となる新聞インクの原料の出荷を東洋インキ向けにスタートした。そのため、なんと、マイクロ波を使用した自社工場を新設してしまったのだ。世界初だった。この時にも日本政策金融公庫の支援があった。
 
吉野は「日本公庫とは付き合いが長く、本質的なところに着目してもらい、節目節目で融資を受けてきた。ベンチャーだととにかく『事業分野を絞りなさい』と言われるが、薬から燃料まで、多様なものづくりを手がけられるマイクロ波の可能性を信頼してくれたのが非常にありがたかった」と語る。
 
14年には世界最大手の化学メーカーであるドイツのBASFとの共同開発も始めた。この春は化学メーカー初の、マイクロ波を導入した食品添加物製造工場を竣工した。
 
「Make Wave, Make World.(世界が知らない世界をつくれ)」のビジョンは地球外にも及ぶ。将来、人類が月に住めるようにマイクロ波で月の石から水を取り出すプロジェクトを始めた。月に水を運ぶには莫大なコストがかかる。すでに水分子を有しているという月の石から水を取り出せるようになればいい。さらに、エネルギーも生み出せるかもしれない。
 
吉野は、挑戦を続けられる理由に「諦めないこと」、そして「運」を挙げた。よりサステナブルなものづくりへの志が投資家たちの志を動かし、運を引き寄せた。


マイクロ波を工場に導入することで、「省エネルギー」「高効率」が実現し、必要な用地も小さくて済む。


中西敦士◎トリプル・ダブリュー・ジャパン代表取締役。慶大卒。新規事業コンサルなどを経て、UCバークレーに留学。2014年、米国でTriple Wを設立。15年、トリプル・ダブリュー・ジャパン設立。

吉野 巌◎マイクロ波化学代表取締役社長CEO。三井物産退職後、米国でベンチャーやコンサルティングに従事。 2007年、マイクロ波化学設立。慶大卒、UCバークレー経営学修士、技術経営(MOT)日立フェロー。


未来に維新を起こせ 「創像力、無限大∞高校生ビジネスプラン・グランプリ」
 


維新の志士たちの多くが若者だった。イノベーターの卵を育てるため、日本政策金融公庫では、高校生を対象にした「高校生ビジネスプラン・グランプリ」を毎年開催している。高校生がビジネスプランを競う全国規模の大会で、若者ならではの自由な発想や創造力を生かしたプランを募集し、その中から優れたプランを表彰する。
 
参加校は年々増加し、第5回の昨年度は全国385校から3247件のエントリーがあった。この回のグランプリは市川高校「Agri Successors」が受賞。棚田用の自律型稲刈り機の販売と、導入農家へのブランド化を支援する、地域の特色を生かしテクノロジーを活用したビジネスモデルが評価された。これまでこのグランプリに参加した高校生は、累計で3万3千人を超え、キャリア教育の一環として参加する高校も増加している。今年度の第6回は過去最多となる396校から4359件の応募があり、現在、選考中だ。
 
なかには、このビジネスプラン・グランプリを契機に、起業に向けて動き出したOB・OGもいる。すでに起業した若者もいるといい、彼らが同世代や現役の高校生と交流する「Innovation Meeting」も開催。未来の“志士”の誕生に向けた活動が活発化している。


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