必要な医療の知識や情報が無かったために、不幸になる人を減らしたい──
そんな想いで、AIを使った医療システムを開発しているUbie共同代表取締役医師の阿部吉倫。
全ての人を適切な医療に案内するべく、起業家としても臨床医としても活動を続ける阿部に、起業の原点や思い描くビジョンを聞いた。
──阿部さんは、高校時代「ノーベル賞をとりたい」と考えられていたとお伺いしました。
昔から、「分からないことを解明する」ことが好きだったのだと思います。小学5年生くらいまでは、漠然と「宇宙は遠いから、まだいろんな事が解明されていなさそう」と考えて、宇宙飛行士になりたいと思っていた気がします。
高校生になり大学の受験勉強を始めると、物事を解明する手段として数学や化学が面白くなり、「将来は学者になってノーベル賞をとりたい」と考えるようになりました。誰かの影響を受けて...とかは特にありませんでしたね。
──その後東京大学医学部へ進学されますが、研究者を志していた阿部さんが、医療の道へ進んだきっかけは何ですか?
私は進学時、「医者になる」と決めていたわけではありません。自分がこれからどの分野で活動していきたいのか、明確に決まっていなかったんです。その段階で選択肢を狭めることはしたくなかったので、「将来医学研究をしたくなるかもしれない」という可能性のために、東大の医学部へ進学しました。
研究者は基本的に、「研究発表をして終わり」です。もちろんそれは常識を覆す発見もあるため素晴らしいことですが、研究発表と社会実装の間には大きな溝がある。私はその溝を埋めて、研究の成果で社会貢献をしたいと考えていたんです。
実習では、患者さんがたった数日で元気に退院していく過程に関わり、医療の素晴らしさを改めて実感しました。
一方で、やはり自分は研究の方が得意だとも思っていた。そのため、臨床医として高みを目指すより、臨床医を経験する中で自分が解決するべきだと思う問題に出会ったら、それに関する研究をしようと考えていました。
──その問題を発見したきっかけが、とある患者さんとの出会いだったんですね。
そうです。その患者さんは、血便を2年間も放置したばかりに、大腸がんで48歳という若さで亡くなってしまいました。
早期の大腸がんの患者さんを救うことは医学的には難しくないのに、患者さん自身に知識が無かった。最適な受診のタイミングが分からないばっかりに末期がん患者として受診し、亡くなってしまうことがとても残念でなりませんでした。そういう患者さんは、病院の中で僕がどれだけ医療技術を磨いても、患者さんが病院に来てくれなければ救うことができません。
そこで僕は、病院で医療行為を行う側ではなく、「医療が必要な患者さんを、必要なタイミングで病院に呼ぶ」役割を担おうと考えて起業に至りました。
──研究のフィールドに起業を選んだのはどうしてですか?
研究だけをするなら、NPOでも研究所でも良かった。しかし最速で社会に価値提供をするためには、現時点だと企業としてソリューションを提供することが最適だと考えました。
現在は病院向けにAI問診票を提供していますが、これは研修医時代の経験がきっかけです。医師の役割は患者さんに向き合うことなのに、患者さんと接する時間よりもカルテを書いている時間の方が長かったんです。なんだこれは、と。AI問診票は「もっと医師がすべき仕事に注力できるようにしたい」と考えて生まれたサービスです。