ビジネス

2018.11.15

1800人の田舎町を「キルトの聖地」に変貌させた、61歳主婦ユーチューバー

ジェニー・ドーン


「マラソンを走りながら、コースの建設もしているようなものでした」とマイケル・ミフスードは振り返る。マイケルは新しい倉庫の資金を調達するため、中小企業庁(SBA)から140万ドルの融資を引き出した。

一方で、ミズーリ・スターでは数千種類もの生地の在庫が倉庫や実店舗に散らばり、運搬の途中で行方不明になることもあった。商品の発送が遅れ、顧客からのクレーム対応にサービスチームが20人体制でかかりきりになることも。16年に新しい倉庫を開設し、荷物を梱包して仕分けする搬送システムを導入するまでは、従業員が手作業で荷物を作り、梱包台から発送台までの70m弱の距離を歩いて運んでいた。
 
16年8月には、経営者としての自分たちの力不足を悟り、週6日勤務にうんざりしていたアラン、サラ、デイビッド・ミフスードは、取締役会を設置。マイケル・ミフスードをCEOに昇格させた。

「うちの家族は、10分あればさまざまなアイデアでホワイトボードをいっぱいにすることができます」
 
アランは語る。

「ですが必要なのは、ホワイトボードのアイデアをどうやって実行に移すか、なのです」
 
マイケルは、他にも経営幹部を雇い入れた。うちひとりは17年3月にCFOに就任したモーガン・ウィリアムズ(35)。ゴールドマン・サックス時代の同僚だ。前職はフィデリティ証券の内部戦略コンサルタントで、ミズーリ・スターでは在庫の追跡管理システムの全面的な見直しを指揮した。
 
毎年キルト展示会を開催しているキルツ社のデータによると、アメリカのキルティング市場の規模は総額37億ドル。しかしマイケルは、オンラインに移行しているのはそのうちの2億ドルにすぎないと指摘する。ミズーリ・スターは当面、オンライン事業を成長させつつ、ハミルトンでの事業も拡大する計画だ。現在所有している5軒の使われていない不動産物件には古い劇場も含まれている。そこでジェニーの実演を行うことも検討しているという。
 
ゴールドマン・サックス出身者を経営陣に迎えても、ミズーリ・スターは相変わらず同族経営の企業だ。義理の親族や22人いるジェニーの孫のうちの3人をはじめ、従業員のうち30人が一族の人間だ。
 
そして、ジェニーは相変わらず毎週キルトをデザインし、毎月4回、動画を撮影している。全米各地のキルト大会にも参加し、夫のロンとともに2時間の展示販売会も行っているが、たいていは完売する。

「自分の仕事が楽しくてしかたがないわ」
 
ジェニーは言う。

「おしゃべりしながら縫い物してるだけだもの」


ミズーリ・スター・キルト◎2008年、ミズーリ州ハミルトンで創業。キルト作家ジェニー・ドーンと子どもたち、その友人らによって、実店舗とオンラインでキルト用生地やグッズのショップを経営する。事業拡大とハミルトンへの観光客の増加に伴い、ハミルトンでのレストランや保養施設事業にも参入している。

ジェニー・ドーン◎1957年生まれ。趣味のキルト作りがきっかけで、2008年にミズーリ州ハミルトンで「ミズーリ・スター・キルト・カンパニー」を創業。これまでにキルト作りのチュートリアル動画500本以上をユーチューブで公開。わかりやすい動画と軽妙なトークで爆発的な人気を集めるようになった。7人の子どものうち2人が、ミズーリ・スターの創業に深くかかわり、現在、一族の30人が同社で働いている。

文=スーザン・アダムズ 写真=ティム・パネル 翻訳=木村理恵 編集=森裕子

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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