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世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

ジェニー・ドーン

自己破産して田舎に引っ込んだ家族が、いまや年商44億円の企業家一家に。ユーチューブを使った販売戦略によって彼らは、人口わずか1800人の田舎町を、全米の愛好家を引き付けてやまない「キルトの聖地」に変貌させた。


柔らかな照明と黒い布ナフキンが特徴のレストラン「ブルー・セージ」で、ジェニー・ドーン(61)はソーセージとカボチャのペンネをつまんでいた。7人いる子どものうちの4人とのランチの最中だ。

2009年、息子の一人がキルト制作のチュートリアル動画のユーチューブへの投稿を提案したとき、ジェニーはこう答えたという。

「ユーチューブって、悪乗りしたティーンエージャーが自分のビデオを投稿するところでしょう?」

9年後の現在、ジェニーの動画は500本を超え、視聴回数は1億3500万回を記録。ドーン家が経営する生地小売りのオンラインショップ「ミズーリ・スター・キルト・カンパニー」の年間収益は推定4000万ドル(約44億円)に達している。

ジェニーが人気ユーチューバーになると、一家はこう考えた。動画を見てジェニーのファンになった人々が本人に直接会える場所があれば、競合他社に差をつけられるのではないか──。そして信号機がひとつしかないミズーリ州ハミルトンを「キルト界のディズニーランド」に生まれ変わらせたのだ。訪れる観光客の数は、いまや月間8000人に上る。

現在、ミズーリ・スターはブルー・セージに50%出資しているほか、ハミルトン市内の別のレストラン3軒にも出資している。同社が市内に所有する12軒のキルト用品店を訪れる人々が利用できるようにするためだ。

同社のキルト用品店はそれぞれに異なるコンセプトに特化した生地を扱っている。花柄専門の店もあればキッズやベビー向けの店、ろうけつ染めの店もある。

また、ふたつの保養施設も所有しており、「開拓時代の西部」や「パジャマパーティ」といったテーマで4日間400ドルのキルティングキャンプを開催。参加者はパジャマ姿でキルトを縫い、レッスンを受け、食事を楽しみ、ミズーリ・スターのキルト用品店に何百ドルも落としていくのだ。

販売とは関係ない「マンズ・ランド」という店舗もある。そこには、男性陣が楽しめるように、レザー張りのリクライニングチェアやビリヤード台、スポーツ番組が流れる薄型テレビが完備されている。

ミズーリ・スターはいまや地域有数の雇用主であり、従業員数は450人に上る。これは、ハミルトンから約22km西にあるキャメロンのふたつの州刑務所に次ぐ規模だ。

店員からファンがレジに来ているとのメールを受け取ったジェニーは、ランチを中断してその店に顔を出し、パティ・ペインター(59)というファンと30分にわたりおしゃべりに興じた。

カリフォルニア州リバーサイドからやって来たペインターは公立校に勤めるIT専門家で、ジェニーのチュートリアル動画でキルト作りを学んで“聖地”にやって来た。彼女は毎週火曜日の夜、女友達7人と重いミシンを持って集まり、制作に精を出しているという。どうしてもジェニーをハグしたかったと語るペインターは、すでに生地やグッズなどに500ドル以上を使っていた。

ドーン家の友人で17年1月にCEOに就任したマイケル・ミフスード(30)によれば、実店舗での売り上げはミズーリ・スターの収入の10%程度。残りはネットショップでの生地販売によるもので、ジェニーのユーチューブ動画を通じた売り込みがそれを
けん引しているという。

「難しいことは何もないでしょ」

再生回数250万回を記録した13分間の動画の中でジェニーは言うのだ。

「完璧じゃなくていいの。目分量で構わないのよ!」

文=スーザン・アダムズ  写真=ティム・パネル  翻訳=木村理恵 編集=森裕子

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