野球とビールの街に笑顔をもたらした「誰もいない」球場

ヘルファー・フィールドの内野の壁に展示されたカウンティ・スタジアムの歴史を紹介するパネル


そしてもう一つ、大きな髭が愛らしい親父キャラのバーニー・ブリュワーもこの球場の名物。レフト側後方に、バーニー・ブリュワー専用の「バーニーズ・ダッグアウト」があり、ブリュワーズの選手がホームランを放つと、バーニーはダッグアウトから飛び出し、その前に設置されている黄色のスライダーでスルスルと滑り降りるのだが、これもカウンティ・スタジアム時代から踏襲されたものだ。

カウンティ・スタジアム時代は、レフト側後方にバーニー・ブリュワーの小屋と大きな樽とジョッキがあり、ブリュワーズの選手がホームランを打つと、小屋から飛び出し、滑り台を滑って、ジョッキの中に入りこんでいたのだ。

ミルウォーキーは、ドイツからの移民が多いビールの街だ。ドイツ移民が1850年に創業し、かつて全米一の売り上げを誇ったシュリッツ社があった。工場があった場所は、当時の建物を残しつつ、シュリッツ・パークと呼ばれるビジネスパークに生まれ変わっている。他にも、ミルウォーキー及びウィスコンシン州内には、1855年創業のミラー社など多数の中小の醸造所があり、その多くで工場見学ツアーを実施している。

その中で最も人気が高いのが、レイクフロント・ブリュワリーだろう。実は同社は、バーニー・ブリュワーの小屋、大きな樽、ジョッキを1万8000ドルで買い取り、ビール工場内で大切に保管している。


レイクフロント・ブリュワリーの工場見学ツアーへの入り口

工場見学に参加すれば、できたてのビールを試飲しながら、歴史ある球場の生き証人に出会うことができる。さすが、ビールの都ミルウォーキーだ。この発想が、ビールと野球をこよなく愛する僕にはたまらない。

工場内見学ツアーの終盤、バーニー・ブリュワーの小屋がある小さな部屋に案内された。すると、突然、ガイドが「野球について語ろうじゃないか」と切り出し、ミルウォーキーの野球史を語り始めた。


熱くミルウォーキーの野球史を語る工場見学のツアーガイド

「そのブリュワーズのマスコットといえば、バーニー・ブリュワーであるが、そのバーニーの小屋こそがここにあるものだ……」と紹介すると、酔いが回り始めたツアー客は、「イエーイ」と盛り上がる。カウンティ・スタジアムの歴史と、地元の人々の球場に対する深い愛情は、跡地だけでなく、こんなところにも残されているのだ。

連載:「全米球場跡地巡り」に感じるロマン
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文=香里幸広

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