ビジネス

2018.11.15

ネットフリックス幹部が明かす「この5年で得た学び」

ネットフリックスCCO テッド・サランドス


私たちネットフリックスはアジアでのサービス展開よりも前に、アメリカなどの国で先にオンラインストリーミングサービスを展開しています。実際、サービスを展開していく中で分かったのはブラジルやメキシコなど、国ごとでユーザーのコンテンツの好みは異なる、ということです。

例えば、ブラジルには中南米で最大規模のテレビ局「グローボ」があり、彼らがマーケットシェアを握っています。そうした市場でサービスを展開し、有料メンバーを増やすのは困難。


2011年に開催された、ブラジルでのローンチイベント(photo by Arthur Simoes)。

それを踏まえて、ネットフリックスが採った戦略は「各地域のクリエイターに投資し、自由にコンテンツを創り出してもらう」ということでした。

各地域のクリエイターが制作したコンテンツは、各地域の文化に適する。そうして生まれたコンテンツは各地域で受け入れられた後、世界中の人たちに広がっていく。だからこそ、私たちは各地域のクリエイターに投資し、コンテンツ制作に注力していくのです。

──とはいえ、各地域発のコンテンツが簡単に世界中で受け入れられるとは思えませんが、どうお考えでしょうか?

おっしゃる通りです。例えば、ネットフリックスが初期に制作したノルウェーを舞台にした初のオリジナルコンテンツ『リリハマー』の内容は、なかなかアメリカで理解してもらえませんでした。

もちろん、一筋縄ではいかないと思いますが、私たちは常に各地域にある“本物のシーン”を伝えることを意識してコンテンツを制作しています。その地域のリアルを外に伝え、興味を持ってもらえるようにする。それにより、コンテンツを世界中へと広げていくことができる、と思っています。

──「アジアは高い創作力が集まっている地域」と仰っていましたが、具体的にどのような点に創作力の高さを感じますか?

私は日本ほど原作が豊富な国はないと思っていますし、日本アニメのクオリティーは他国が真似しようと思っても真似できない。世界に誇るべきクオリティーの高さだと思っています。


新たに発表された日本発のアニメコンテンツ「虫籠のカガステル」のキーアート(ネットフリックス提供)。

韓国のKドラマ、インドのボリウッドもそうです。アジア地域における多様性や国ごとのコンテンツスタイルは、とてもユニークだと思います。

その多様性や多彩なスタイルを活かしたコンテンツを配信すれば、より多くのファンを獲得できると確信しています。

──確かに、アジアは言語など多様性に溢れています。多様性を理解するために何か工夫していることはありますか?

各地域の文化を学ぶために、実際に各地域へ足を運ぶようにしています。

東京、ムンバイ、それからシンガポールもそうですが、各地域へ旅をする。それによってネットフリックスがブランドを築いていくための知識を得ています。その土地その土地で得られる知見や経験、文化の学びひとつひとつ得ることで、作品作りに生かすことができると思っています。

CCOが定義する「良いクリエイターの条件」

──『ハウス・オブ・カード 野望の階段』はネットフリックスが過去に蓄積したデータをもとに制作の意思決定が行われたと聞いています。現在、コンテンツ制作にあたって「データ」はどれくらい重視されているのでしょうか?

データは単なるフィードバックであり、意思決定を下すために必要な情報を提供してくれるツールでしかありません。私たちがコンテンツ制作する上で何よりも重視しているのが、ユーザーが興味を持つストーリーかどうかです。

作品を観た人が忘れられなくなるくらいストーリー性のあるコンテンツを制作する。私たちは常にその意識を持って、日々、コンテンツを向き合っています。

──ネットフリックスはクリエイターの自由度が高いことでも有名です。

はい、それは確固たる当社の信念です。ですから、良いコンテンツを制作するためには、きちんとしたクリエイターを選ぶことが大切です。良い人選が行えれば、コンテンツの細かな部分はクリエイターに任せて、私たちは彼らを楽しませる存在でいればいい。


『モーグリ: ジャングルの伝説』の撮影風景。アンディ・サーキスは監督もしながら、出演もしている(ネットフリックス提供)。

例えば、今回のイベントに参加しているインドのクリエイターたちは、『ナルコス』のエリック・ニューマン監督に会うのをすごく楽しみにしていました。

ネットフリックスはグローバルにサービスを展開しているからこそ、各国の優秀なクリエイターたちが交流を図りながら知識の共有を行うことができる。これもコンテンツ制作におけるひとつの強みです。
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写真=小田駿一

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