ビジネス

2018.11.16

元難民が創業、チャットボットが「かかりつけ医」になる日

バビロン・ヘルスCEO パルサ・アリ

英国発のスタートアップ、バビロン・ヘルスが提供する医療相談チャットボット。英国民保健サービスやルワンダが採用、米国やアジアでの展開もしている。


身体の不調を感じた時、まずは医師ではなくチャットボットに相談、必要なら医師とのビデオチャットや医療機関での診察を予約。処方薬を近所の薬局で受け取ることもできる─。アリ・パルサが創業したバビロン・ヘルスは、乱立するヘルステック企業の中で「最も近未来的な」医療サービスを提供する。

同社はAIに数百万ドルを投資。目指すは「人間の医師の脳」の再現だ。平均点がおよそ72%とされる英国の家庭医学会の試験で、同社のAIは81%を取得した。

すでに一部の医師の仕事は同社のチャットボットに置き換えられている。大口顧客の一つ、英国民保健サービス(NHS)。ロンドン北部で2万6000人以上が同社のサービスを家庭医替わりに登録。さらに2万人が順番待ちリストに名を連ねる。

NHSからバビロン・ヘルスに払われるのは、患者一人当たり年間平均80ドル。普通の医療機関と同程度だ。以前はそういった医療機関にNHSから支払われていた2650万ドルがバビロン・ヘルスに割り当てられることになる。利用者のうち実際に医師とビデオチャットをするのは15%ほど。パルサは「医療アクセスを向上し、最終的に医療費の抑制につなげられる」と話す。


紛争で医師不足が深刻なルワンダでもAIチャットボットを展開している。

イラン北部の政治活動家の両親のもとに生まれたパルサは、自身も野党の青少年指導者となった。1979年イラン革命のころだ。17歳で亡命し、叔父が住むウェールズに身を寄せた。独学で英語を学び、ロンドン大学に入学。学生運動に身を投じ、卒業後は金融機関で勤務。13年にバビロン・ヘルスを創業した。

パルサの壮大な野望や大胆な発言を批判するライバル企業や投資家も多い。対するパルサは「ママやパパがいい学校に送ってくれて、自らリスクをとったことがない人たちだ」と気にかけない。

16年に進出したルワンダでは、200万人以上が登録。英保険会社やサムスン、騰訊など大口顧客と契約が進む。


パルサ・アリ◎バビロン・ヘルスCEO。イラン北部ギラン州生まれ。17歳で渡英した。ロンドン大学卒。金融機関勤務を経て、2013年に創業。グーグルのAI企業DeepMindの創設者らから8500万ドルを調達した。

文=パルミー・オルセン

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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