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喰い改めよ!!


どうやって食材の香りと味を引き出し、どうやってその引き出したその香りと味をお皿に閉じ込めていくか──。

ジャガイモのニョッキを作る際には、ジャガイモを丸ごと茹でた後に、皮付きのままローストするのがポイントです。そのときに漂う香りといえば、皆さんご想像の通り。料理会の参加者からは「なんか懐かしいなぁ」なんて声が漏れていました。

この香りが重要なんです。ニョッキを作る際にはこの焼き芋の香りが出るまでジャガイモをローストしてから、他の食材と混ぜる。その一手間でジャガイモの糖分が少しキャラメリゼして香ばしくなり、塩分を使わずともいい味になります。



スープはかぼちゃのスープを作ったのですが、まずは玉ねぎに無塩バターを加えてゆっくりと弱火で炒めます。かぼちゃも同様にゆっくり弱火で炒めて、存分に甘みを引き出してから、チキンブイヨンと牛乳で沸騰させずに煮込んでミキサーにかけると、心がホッとする優しい味になります。

メインは、ピエモンテ地方名物の赤身の骨つき牛。香味野菜のニンニク、玉ねぎ、人参、タイムとバターと、じっくり、お肉が縮まない(=汗が出ない)温度で熱を通してロースト。加熱によって素材が持つ塩分が外に出ないようにするのと同時に、香味野菜の優しい香りをつけることで、これもまた、参加者の常識をひっくり返すような味に仕上がりました。

塩気がないのが「しょうもない」のか?

これまで僕は、料理人として、「素材に塩をして味を引き出すこと」や「出来上がった料理の仕上げに塩の花を振ること」で味というものを考えていたのですが、最近は、その考えが実は食材の味を殺すこともあると思うようになりました。

塩を使うということは、調理時間を短くすることへの取引なのではないか。つまり、火をかける時間が短くて味が出ないから、素材に塩を振って味を引き出したり、味を足すことになる。その結果、塩分摂取の量が増え、美味しくても健康には悪い習慣になっているのではないかと考えています。

くだらないことと意味する「しょうもない(仕様もない)」という言葉があります。僕は料理的な思考で、味気のないものを「しょうもない(塩もない)」と変換していましたが、塩味ではない酸味や苦味やうま味について知るほど、また意識するほどに、時間をかけず塩に頼る方がしょうもなく、それよりも手間暇かけて心に響く味を作らなくてはいけないような気がしています。


塩を使わずスパイスをたっぷり使ったカレー作りを研究。今後は東京のお店でも「塩なし」料理教室を開催していく予定。

今の時代、人間ドックや定期健診に行くと、高血圧、心臓病、動脈硬化、不眠症など、いわゆる生活習慣病について疑われ、「減塩、減糖、減酒、減煙」の指導を受ける人も少なくないと思いますが、それらの要因は、食事でコントロールや改善できることが多いです。

ただ、やみくもに塩分や糖分を減らせばやはり美味しくなくて、続きません。味や質にこだわるとなると、料理は弱火でなくてはいけず、時間がかかります。こう聞くと、おばあちゃんの煮込み料理が優しくじわーっと身に沁みるのは、子や孫のことを思う愛情が時間として調理にかけられ、素材の味が出ているからだと納得できるのではないでしょうか。

「しょうもない味」というのは、自分自身の忙しさと比例するのかもしれません。喰い改めるには、生活習慣自体も改めていければと思います。とはいえ僕はなかなか、お酒の量は減らせません。

連載:喰い改めよ!!
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文=松嶋啓介

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