ビジネス

2018.11.15

「買収=身売り」の表現はナンセンス スタートアップの新たな成長スキームとは?

シニフィアン共同代表 朝倉祐介




──M&Aはスタートアップと大企業の両者にとって意味のあることだと思いますが、お互いの考え方、価値観が合わずに上手くいかないケースも耳にします。M&Aを成功させるために意識すべきことは何でしょうか?

先ほど挙げたLoco Partnersの場合は、ファイナンスのタイミングでKDDIが投資家として入ってくれています。もう1度、資金調達するかどうかのタイミングでM&Aに至りました。

そのため、事前にお互いがどんな会社かは把握できていましたし、すでに事業の連携も始まっていたので双方が納得できる形で、M&Aが完了しました。成功例としてはまだ道半ばだと思いますが、Loco Partnersを筆頭にM&Aによって成長していくスタートアップの事例がいくつか示すことができれば、日本国内におけるM&Aの数はもっと増えるでしょう。

また、成功のためには交渉の段階でお互いの期待値を調整することが大事だと思います。餅は餅屋なので、成熟した大企業でオペレーションを磨き上げてきた人たちが、ゼロからイチを生み出すスタートアップの経営指導をするのは難しいです。

極端に言えば、スタートアップが大企業に求めているのは資本です。大企業側は大風呂敷を広げて安請け合いせず、何を提供できるのか。スタートアップ側は過剰に期待するのではなく、逆に何を期待されているのか。お互いに線引きした方が良いと思います。

──ありがとうございます。最後にM&A後もスタートアップが成長し続けていくためのポイントを教えてください。

ひとつは組織人として、コミュニケーションの作法を身につけること。当たり前ですが、買収されたら上司ができます。スタートアップの起業家にとっては窮屈に感じることもあるでしょうが、そこは大人の対応が求められます。場合によっては大企業側とコミュニケーションをする人を別に配置する必要もあるでしょう。

あとは、現場の士気をどう保つか。IPOを目標に掲げていた場合、M&Aというゴールに納得がいかないメンバーも少なからずいます。ただ、本質は何なのか。M&Aは事業をさらに成長させていくための方法論でしかありません。自分たちは何を目指しているのかを言語化して意識付けする風土づくりが重要になるでしょう。



まだまだ、日本国内では大企業へのM&Aが少ないですが、成功例が増えれば、後に続くスタートアップが増えていくでしょう。

それによって、上場によるイグジットと買収によるイグジットが逆転する状況になったら、日本のスタートアップ・エコシステムはさらに面白くなっているはずです。

文=督あかり 写真=小田駿一

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