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2018.11.15 11:30

「買収=身売り」の表現はナンセンス スタートアップの新たな成長スキームとは?

シニフィアン共同代表 朝倉祐介

シニフィアン共同代表 朝倉祐介

各投資ラウンドで資金調達し、IPOを目指す──そうしたスタートアップがいる一方で、昨今、目立ってきたのが大企業の傘下に入り、彼らのアセットを活用した成長を目指すハイブリッド型のスタートアップの存在だ。最たる例はKDDIグループのSupership、ヤフー入りを表明したdelyなどがそうだろう。

M&Aなどによって、大企業の傘下に入ることはスタートアップの成長戦略のひとつと考えられるが、日本では「大企業へのM&A=身売り」と表現されてしまいがちだ。

そうした状況に対し、「身売りといった前時代的な表現はナンセンスだと思う」と異論を唱えるのがシニフィアン共同代表の朝倉祐介だ。IPOよりも大企業傘下を選ぶスタートアップが増えたいま、同氏にイグジット戦略としての「大企業へのM&A」について話を伺った。

日本は「M&A=身売り」の考え方を刷新していくべきだ

──ここ10年くらいの間で、日本のスタートアップ・エコシステムはどのように変化してきたか、考えをお聞かせください。

2005年頃から、東京大学には「アントレプレナー道場」という起業家育成のための講義があり、僕はそこの1期生でした。当時は「わざわざ東大に入って、会社を立ち上げるの?」と、周囲の反応は冷ややか。しかし翌年、周囲の反応を振り切って、ネイキッドテクノロジーを立ち上げました。それからライブドアショック、リーマンショックでスタートアップへの投資環境が冷え込んでいたのが10年前くらいのこと。

大学卒業後はマッキンゼーで3年ほど働き、ネイキッドテクノロジーに復帰し、代表に就任。2010年にミクシィへの売却に伴い、ミクシィに入社しました。

かつては1億円程度の資金調達でもスタートアップのコミュニティ内ではインパクトのあるニュースでしたが、今では数十億円の調達も珍しくない。資金調達の環境は当時に比べて、劇的に良くなりました。それに伴い、スタートアップにチャレンジする人の量、質ともに進化/深化したと思います。まだ10年も経っていないけれど隔世の感がある。

この動きは一過性のブームでは終わらない。日本のスタートアップ・エコシステムはこの10年で大きく発展し、今後もさらなる発展の可能性があると思っています。

──アメリカのイグジットはM&Aが多いですが、日本はあまり話を聞きません。スタートアップ・エコシステムが発展を遂げているにもかかわらず、なぜここまで少ないのでしょうか?

おっしゃる通り、アメリカはM&Aによるイグジットが9割ですが、日本はM&Aの数はまだ非常に少ないです。その要因のひとつとして、会計基準の問題が挙げられるでしょう。

日本の会計基準では、「のれん」は一定の期間をかけて損益計算書で費用として償却する決まりです。一方、国際会計基準(IFRS)は「のれん」を定期償却しませんが、決算ごとに「のれん」が収益を生み出しているかチェックし、収益に貢献していない場合のみ損失として計上することになっています。これでは日本企業はM&Aによって、損益計算書が目減りしてしまう。これを嫌がり、経営陣がM&Aを尻込みしてしまうのです。とはいえ、日本ではスタートアップに限らず、M&Aの成功数が少ない。「慣れ」が必要だと思います。



他には文化的な背景もあるでしょう。例えば、会社を立ち上げたら最後までやり続け、事業を運営し続ける。社員も会社に紐づいて働くのが当たり前といった考えがあります。これは戦時中からの社会通念です。こういった固定観念から、経済合理的にスタートアップ側もM&Aに動けていないのではないでしょうか。
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文=督あかり 写真=小田駿一

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