それに比して、今回の新法廷は、冒頭手続きからすでにカジノ中毒者専用であり、はじめから代替罰を期待できるという点で、人道的であり、合理的だという評価だ。
しかし、多種多様な理由や背景から刑事事件が生まれているのに、カジノ中毒者だけを優遇する不公平感は漂う。さらに、代替罰が最初から期待できるということは、刑事罰が本来持つ抑止効果を大きく薄めてしまうという懸念もある。
さらには、カジノ中毒症の判定はほとんど自己申告によるしかないので、刑事弁護士が代替罰を狙う意味で、実態にかかわりなく犯罪者にカジノ中毒を主張させ、この法廷をめざすことにならないかという懸念もある。もちろん、代替罰による被告人への更生が強調されすぎると、被害者感情を逆なでするということにもなり、問題は根深い。
しがらみが見え隠れ
そもそも、ラスベガスにおけるカジノ中毒者の研究は数10年にわたり、ハーバード大学の医学部との提携もあって、最先端を行っている。なのに、なぜ今になってカジノ中毒者専用法廷なのかという疑問にも、明確な答えはない。
実は、将来のネバダ州知事候補とも目される、ラスベガスの大物検事長(夫人は裁判官で、O・J・シンプソンの強盗事件を扱い、全米で名を売った)のスポークスウーマンが、約500万円を選挙資金から盗んでギャンブルに流用していたことを、ラスベガスの現地新聞リビュージャーナル紙が、今年すっぱ抜いたところだった。
しかし事件から8カ月たっても、いまだにこの盗難事件を検事局は起訴していない。そしてこの犯人のスポークスウーマンはカジノ中毒者であり、カジノの負けを取り戻すために手をつけたと報道されている。
検事長職は選挙で選ばれる。この検事長は今回の新法廷の設立委員の一人であり、このタイミングは側近の犯罪を不起訴にするための言い訳のようで、不穏当ではないかと非難されても仕方がない。
重犯罪や再犯には、おそらくこの新法廷はあてがわれないというところで、一定の歯止めがあるとはいえ、法廷が事案によってでなく、被告人の事情によって選ばれるという無理が、せっかくの設立趣旨に歪みを生じさせないことを期待したい。
連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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