日本で2023年に開場する予定のカジノも、規制法案の議論の中心は徹頭徹尾カジノ中毒症問題なので、大いに参考になるにちがいない。
そもそも、アメリカは、法廷の種類が多すぎる。地裁、高裁、最高裁というところは、日本とほぼ仕組みは重なるが、それ以外のところがさまざまにある。知財を専門に扱う法廷や、ビジネス訴訟専門の法廷、さらには移民法専門とか離婚専門、交通違反専門、少年犯罪専門と続く。
普通の地方裁判所や高等裁判所とは違う「専用法廷」というものの存在は、日本人にはわかりにくい。あえて言えば、日本の簡易裁判所において60万円以下の訴額を1回の審理で決着させる特別訴訟手続(=少額訴訟)に似ている。たいてい、裁判所が建っているわけではなく、所内に専用法廷が割り当てられおり、そこで審理できることには事案の管轄や程度に対する制限があり、当てはまらなければ地方裁判所管轄となる。
専門性を上げることで審理を早くし、民事も刑事も扱うのでトータルに行政コストを下げることにおいてはプラスだが、移民法がらみの離婚とか、少年が被告人である重罪など、担当法廷の振り分けは、市民にはとてもわかりにくい。そのうえ、今度はカジノ中毒者の法廷だ。
裁判長からの「代替罰」の提示
もちろん、カジノ中毒になること自体は犯罪でも何でもない。犯罪が中毒者によって起こされた場合にのみ適用される法廷ということだ。なぜ、そんなものが必要なのかと言えば、カジノ中毒者が犯罪を犯したときに、通常の地方裁判所で審理をして一律に刑務所に送って反省を促しても、カジノ中毒という根本的な症状は改善させられず、いつかまたここに戻ってくるという、症例研究があるからだ。
しかも、このカジノ中毒者専用法廷を利用することで、より犯罪者に的確な更生プログラムを与えられるので、被告人にとっても社会にとっても有益だという発想だ。
カジノ中毒者専用法廷の設立は、カジノ中毒症の研究で名高い、シェリル・モスというラスベガスの女性判事のライフワークが実現したもので、今後、モス判事がこの法廷の裁判長を務める。もとはといえば、精神科医だった彼女の母親が、この専用法廷を提唱してきた経緯もあり、親子二代にわたっての研究論文と主張の成果だ。
一般論として、これまでにも、重罪でないかぎり、被告人は担当裁判長から刑期の代わりに、道路や公園の清掃である「代替罰」を提示され、そちらを選択するということはいくらでもあった。しかしそれはあくまで結審してのちの、裁判官の情状酌量によるものだ。