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ASIANEWS シンガポール支局長

「ザ・ブリッジ」のポップアップで提供された、日本の出汁を思わせる「清湯」

「今の四川料理は厚化粧をした美少女のようなものだ。その素顔の美しさを伝えたい」

アンドレ・チャンの刺激的な言葉で、イベントはスタートした。アンドレといえば、去年10月、シンガポールにあるミシュラン2ツ星のモダンフレンチ「レストランアンドレ」の閉店を発表した有名シェフ。アジアのベストレストラン第2位に輝いたことがあり、No.1も近いと囁かれた人気絶頂の店だけに、そのニュースは世界を驚かせた。

そして、その言葉通り、今年2月、アンドレはその扉を永遠に閉じた。閉店の理由については様々な噂が流れたが、最後の日、アンドレを個人的に訪れて話を聞くと、「自らのルーツであるアジアの料理を世界に広めるという、新たなミッションを見つけたから」という明快に答え、次のように続けた。

「高級料理を学ぶ、というと、ほとんどのアジアのシェフが欧米に行く。でも、アジアにも独自の料理の技術や歴史がある。その良さを見直し、逆に欧米からアジアに、高級料理を学びにくるようになればいいと思う」

四川料理にはクリエイティビティの魅力が

人気レストランを閉店してまで、アンドレは実際に何をするのか。その新しいプロジェクトに注目が集まる中、彼が発表したのが、なんと中国四川省の中心都市、成都に四川料理のレストラン「ザ・ブリッジ」をオープンすることだった。中国4大料理の1つと数えられながらも、広東料理などと比べて世界的知名度の低い、四川料理にスポットライトを当てたのだ。

そもそもアンドレは台湾の出身で、四川とは縁もゆかりもない。数あるアジア料理の中でも、なぜ、四川料理だったのか。私がその答えを、身をもって知ることになったのが、9月にマカオのホテル、ウィン・パレスで行われた、ザ・ブリッジ初のポップアップイベントだった。

その席で、アンドレが開口一番述べたのが、冒頭に書いた一言だった。


四川料理の魅力を語るアンドレ・チャン

そして、「四川に唐辛子が伝わったのは、300年ほど前のこと。辛さが四川料理のアイデンティティのようになってしまっているが、それは1つの味の要素にすぎない。自分自身、シンガポールにいた時は、四川料理といえば、唐辛子の辛味とワック(高温の油を熱したときに出るスモーキーな香り)だと思ってきた。でもそれだけではない。四川料理の歴史を紐解くうちに、そのクリエイティビティに取り憑かれた」と続けた。

そのクリエイティビティとは、豊かな食材が手に入るという理由によるものなのか。実は、その逆なのだ、とアンドレは語る。

「四川は数百年前まで貧しく、シンプルな食材しか手に入らなかった。それなのに、24種類もの基本の味がある。ライチを使わずに、ベーシックな調味料の調合でライチ味を表現するなど、素材が少ないからこそ、創造力を駆使して、複雑で素晴らしい味わいを生み出した」

食材が少ないからこそ、生まれたクリエイティビティ。その1つの表現として、ザ・ブリッジでは、前菜として18種類の漬物を出しており、この日のポップアップでは、そのうちの6種類が供された。


ポップアップで提供された6種類の前菜

「辣」と呼ばれる唐辛子の辛味だけでなく、「麻」と呼ばれる四川山椒の辛味、そして地元の小規模なこだわりの生産者と契約して特別に作ってもらう発酵食品、山で採れるキノコなどの旨味や酸味を味付けに生かした、複雑な味わいだ。

文・写真=仲山今日子

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