サンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は、今後のセクハラ事案については調停による解決を義務付けないと宣言するとともに、性別と多様性の問題に対する取り組みの優先度を上げ、告発の手続きを改善し、セクハラ研修を拡大すると約束した。こうした対策はいずれもグーグルの職場を一変させることはないだろうが、セクハラ研修の拡大は、問題解決どころかさらなる問題を生む可能性がある。
ピチャイは従業員向けのメッセージの中で、「私たちは必須のセクハラ研修を更新・拡大する。研修を完了しない従業員は、パーフ(Perf)において1の評点を与えられる」と述べている。パーフとは、グーグルの業績(パフォーマンス)評価制度のことだ。
セクハラ研修は、問題行為の減少に大きな効果を発揮しないばかりか、女性従業員にとって状況を悪化させかねない。例えば、セクハラ研修は特定の性別に関する固定観念を植え付ける恐れがあり、これはグーグルが目指すものと完全に反する。ジョージア大学のジャスティン・ティンクラー準教授(心理学)の研究では、必要最低限のセクハラ研修であっても、性別に対する固定観念を強めるとの結果が出ている。
さらに筆者自身が行った研究でも、似たような結果が得られた。セクハラ研修ビデオを観た人にだけで、被験者には女性は感情的に弱い存在だという印象が残ってしまったのだ。この背景には、従業員の多くがセクハラ研修について、女性従業員を守るためのものとみなしていることがある。これは、自力では自分を守れない弱い女性たち、というイメージにつながる。
また、セクハラに対する意識が高まることで、異性との関わりについて過度に慎重になっている従業員が多いことも分かった。職場で男女間に“壁”ができているのだ。
男女間に壁が作られることで、女性は働きにくくなる。例えば、ある役員が仕事後に同性の部下を飲みに誘ったとする。2人の間には友情や、師弟関係が生まれることもあるだろう。一方で、同じ役員が異性の従業員を誘った場合は話が変わり、不純な動機があるのではと疑われる。グーグルのように男性が多い職場では、女性は出世のため男性とも関わっていかねばならず、異性間の交流を制限するようなことは何であれ、女性の出世の妨げになる。