しかし、EUとイギリスの間で離脱をめぐるさまざまな条件の合意に至らず、迷走を続けている。イギリス国内では、最悪の事態として「合意なき離脱」も想定した動きが見られる。
「合意なき離脱」となった場合、イギリスや日本の経済にどのような影響があるのか。そしてどのような混乱が起きる可能性があるのか。 EU離脱問題にくわしいイギリス現地在住の元為替ディーラー松崎美子さんに聞いた。
さまざまなEU離脱のケース
──今、イギリスのEU離脱に向けて、さまざまな交渉が繰り広げられていますが、そもそもどのような離脱の形態が想定されているのでしょうか
EU離脱には、「合意なき離脱」「ソフトブレグジット」「ハードブレグジット」3つのパターンがあります。
まず、「合意なき離脱」とは、いわば着の身着のまま、EUと何の条件合意もしないまま即離脱することです。EUとの交渉が行き詰まっているため、この「合意なき離脱」がワーストケースシナリオとして現実味を帯びてきています。
そして、EU離脱後も関税同盟あるいは単一市場に恒久的に残留するのが、「ソフトブレグジット」、関税同盟に一時的に残留するが、移民・難民の制限を厳しくするのが「ハードブレグジット」になります。
ソフトブレグジットとハードブレグジットでは、
・関税同盟に恒久的に残るか否か(結果として、関税同盟残留料の支払いが生じるか否か)
・欧州司法裁判所の管轄から外れるか外れないか
この2つが大きな違いとなります。関税同盟に恒久的に残り、欧州憲法裁判所の管轄にある状態のまま離脱すると「ソフトブレグジット」、その2つの管轄から外れる形で離脱すると「ハードブレグジット」となります。
イギリスでは特に、欧州司法裁判所の影響を受けたくないという思いが非常に大きいと言えます。
イギリスは、EUとの関係を一切合切断ち切りたいから離脱したいと思っています。それなのにEUによる関税同盟の規制を守る、あるいは欧州司法裁判所の判断がイギリスの最高裁のそれよりも優先されるのが許せないのです。
これはある意味、イギリス国民の感情論が先走っているといえます。
イギリス人は世界中を植民地にし、世界を制覇したグレートブリテンの歴史を誇りに思っています。こうしたイギリス人の価値観、感情論がEU離脱交渉に影響し、最悪の「合意なき離脱」に突き進むリスクを犯すことも厭わないようです。