日米で初登場第1位、フレディ・マーキュリーの数奇なる人間ドラマ

映画「ボヘミアン・ラプソディ」の劇中シーン (c)2018 Twentieth Century Fox

単なる音楽映画かと油断していた。映画「ボヘミアン・ラプソディ」は、フレディ・マーキューリーという稀代の表現者の、鮮烈な生き様を描いた素晴らしいヒューマン・ストーリーだった。このようにあえてステレオタイプな書き方をして、いささか含羞を感じている筆者なのだが、そんなへそ曲がりでさえ、シンプルに感動を覚えるのが、この作品だ。

フレディ・マーキュリーが活躍していたクイーンというバンドを、実は、あまり熱心に聴いた人間ではない。1973年にデビューした彼らは当初、日本では「ビジュアル系のバンド」として受け止められていた。ある音楽専門誌のレビューで、3枚目のアルバム「シアー・ハート・アタック」が、異様に低い点数で評価されていたのを思い出す。

煩いロックファンの間でも、「リズムがなっていない」とか、「あれはロックではない」とか、かなり辛辣な声も多く聞かれた。ただ、「ミュージック・ライフ」誌だけは、彼らを全面的に支持していて、度々、表紙にもフィーチャーし、グラビアでも頻繁に登場していた。

当時、ウエストコーストミュージックにどっぷりと浸かっていた者としては、クイーンはまさに興味の対象外であった。正直言って、「世界で最も売れたアーティスト」のリストにも名を連ね、アルバムとシングルのセールスで3億枚と世界第5位の位置を占める現在でさえ、クイーンの曲はいくつかの大ヒット曲しか知らない。

ライブエイドの奇跡の21分間を再現

クイーンに対して、ましてやフレディ・マーキュリーに、それほど関心のなかった者でも、この作品には強く心を動かされた。実に深いところにまで降りて、フレディ・マーキュリーとその同伴走者であるクイーンの軌跡を、ヒューマンドラマにしているのである。

ドキュメンタリーではなくドラマであるので、事実との相違は多少あるものの、フレディの出自(インド系で本名はファルーク・バルサラ)や歯並びの悪さ、バイセクシュアルで、エイズにより死去、それら言わば「影」の部分にまでしっかりとフォーカスし、この不世出のボーカリストであり作曲家でもある偉大な才能の実像に迫っている。


(c)2018 Twentieth Century Fox

また、フレディと他のメンバーとの軋轢やスタッフとの諍い、そしてレコード会社との相剋など、実に丁寧に負のエピソードも綴られていく。このあたりのドラマづくりはなかなか堅固なものであり、感動を生み出す源泉ともなっている。

それらのドラマを、首飾りの宝石のように繋いでいく音楽も素晴らしい。クイーンの実際の音源を使い、かなりタイミングよく場面場面を盛り上げていく。ことに、クライマックスである1985年に行われた「ライブエイド」での演奏場面は、観客で埋め尽くされたウェンブリー・スタジアムの実写映像をミックスして、奇跡の21分間のステージを再現している。


(c)2018 Twentieth Century Fox

実際の映像と見比べてみたが、このライブエイドの場面は、むしろ実物より迫力があり、あらためて最新の再現技術と特殊効果の素晴らしさに脱帽した。
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文=稲垣伸寿

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