フレディ・マーキュリーが活躍していたクイーンというバンドを、実は、あまり熱心に聴いた人間ではない。1973年にデビューした彼らは当初、日本では「ビジュアル系のバンド」として受け止められていた。ある音楽専門誌のレビューで、3枚目のアルバム「シアー・ハート・アタック」が、異様に低い点数で評価されていたのを思い出す。
煩いロックファンの間でも、「リズムがなっていない」とか、「あれはロックではない」とか、かなり辛辣な声も多く聞かれた。ただ、「ミュージック・ライフ」誌だけは、彼らを全面的に支持していて、度々、表紙にもフィーチャーし、グラビアでも頻繁に登場していた。
当時、ウエストコーストミュージックにどっぷりと浸かっていた者としては、クイーンはまさに興味の対象外であった。正直言って、「世界で最も売れたアーティスト」のリストにも名を連ね、アルバムとシングルのセールスで3億枚と世界第5位の位置を占める現在でさえ、クイーンの曲はいくつかの大ヒット曲しか知らない。
ライブエイドの奇跡の21分間を再現
クイーンに対して、ましてやフレディ・マーキュリーに、それほど関心のなかった者でも、この作品には強く心を動かされた。実に深いところにまで降りて、フレディ・マーキュリーとその同伴走者であるクイーンの軌跡を、ヒューマンドラマにしているのである。
ドキュメンタリーではなくドラマであるので、事実との相違は多少あるものの、フレディの出自(インド系で本名はファルーク・バルサラ)や歯並びの悪さ、バイセクシュアルで、エイズにより死去、それら言わば「影」の部分にまでしっかりとフォーカスし、この不世出のボーカリストであり作曲家でもある偉大な才能の実像に迫っている。
(c)2018 Twentieth Century Fox
また、フレディと他のメンバーとの軋轢やスタッフとの諍い、そしてレコード会社との相剋など、実に丁寧に負のエピソードも綴られていく。このあたりのドラマづくりはなかなか堅固なものであり、感動を生み出す源泉ともなっている。
それらのドラマを、首飾りの宝石のように繋いでいく音楽も素晴らしい。クイーンの実際の音源を使い、かなりタイミングよく場面場面を盛り上げていく。ことに、クライマックスである1985年に行われた「ライブエイド」での演奏場面は、観客で埋め尽くされたウェンブリー・スタジアムの実写映像をミックスして、奇跡の21分間のステージを再現している。
(c)2018 Twentieth Century Fox
実際の映像と見比べてみたが、このライブエイドの場面は、むしろ実物より迫力があり、あらためて最新の再現技術と特殊効果の素晴らしさに脱帽した。