メンバーと対立して孤独を深めていくフレディ。しかも病魔にも襲われ、彼にとっては乾坤一擲のステージがこのライブエイドだった。フレディが、45歳の短い生涯を閉じるのは6年後の1991年だが、このライブエイドのシーンをクライマックスに持ってきたのが、この作品が成功した要因かもしれない。
本人なりきりの演技にも注目
監督としてクレジットされているのは、「ユージュアル・サスペクツ」や「X-MEN」シリーズのブライアン・シンガーだが、クランクアップの2週間前に、監督交代という「アクシデント」に見舞われ、一度は監督候補に選ばれていたデクスター・フレッチヤーが、後を引き継ぎ完成させた。撮影が3分の2以上終わっていたことや、やはりフレディ・マーキュリーの放つ強烈な個性が、突然のアクシデントをものともせず、完成度の高い作品へと導いたのかもしれない。
フレディ役のラミ・マレックの、本人なりきりの演技も素晴らしい。彼の癖を徹底的に研究しており、とくに後半、フレディが短髪でヒゲのマッチョな姿になってからの演技は、本人と見紛うほどだ。加えて、他のメンバー、ブライン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコンを演じたグウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロも、完璧にクイーンというバンドを再現していた。
(c)2018 Twentieth Century Fox
「完成した映画を観て、ワクワクしている。家族や人間関係、希望に夢、悲嘆や失望、そして最後には勝利と達成感が、誰にでも共感できるような物語として描かれている」映画では音楽総指揮を務めたクイーンのギタリストであるブライアン・メイのこの言葉には、作品の見どころがすべて凝縮されている。
冒頭で音楽映画ではないと書いたが、前言を翻したい。この作品はフレディ・マーキューリーという栄光と挫折に彩られたスーパースターの人間ドラマであると同時に、クイーンという世界に類を見ないパフォーマンスを生み出してきたバンドの音楽映画でもあるのだ。
ちなみに、アメリカでは、11月1日に封切られ、週末興行収入は5000万ドル(約56億円)を記録。第2位(ディズニーの「くるみ割り人形と秘密の王国」)以下を大きく引き離して、トップの座に輝いた。日本でも9日より全国438スクリーンで公開され、公開3日間で興収4億8698万円をあげ、週末興行収入のランクでも、アメリカと並んで第1位を獲得、予想外の大ヒットを記録している。
これまでファンではなかった筆者も、実は、この作品を観てから、アップルミュージックでずっとクイーンの曲を流しつづけている。
連載 : シネマ未来鏡
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