ビジネス

2018.11.11 15:00

藍を染め、藍に想う


光を追い風に、人に会いに行く

さて、第1回で僕が「注目の匠」に選んだ、永原レキ君の話をしよう。

レキ君は、徳島県代表の海あま部べ 藍プロダクトデザイナー、つまり藍染職人である。室戸岬の青い空と海を藍の染め重ねで表現した「空 海 藍 Surfboard」は、海外の美術館に所蔵されたり、これまでの藍染めにはなかった意外なプロダクトが発展したりと、非常に反響が大きかった。

アーティストでも歌手でも女優でもそうだが、光が当たることで輝き始める人というのがいる。彼もそのひとりで、まさに覚醒した感があった。ただの藍染職人にとどまらず、その光を追い風にして、いろんな人に会いに行ったのだ。

そのうちのひとりが、野老朝雄さん。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムを制作したデザイナーである。「あれは藍色だ!」ということで(笑)、レキ君は野老さんに会いに行き、たちまち仲良くなった。

それからどうなったか。徳島県は特産物である藍を使ってブランディングや PR を行っている。そこでレキ君は県庁に乗り込み、「いまだったら協力してくれます!」と野老さんを紹介し、徳島県のプロジェクトに巻き込んでいったのである。野老さんは「藍とくしま」のロゴマークおよび「組藍海波紋(くみあいがいはもん)」を制作することになった。

そのレキ君からずっと「遊びに来てください」と誘われていたので、今年(2018年)8月に野老さんとオリンピック委員会の方と一緒に徳島を訪れた。

レキ君のアトリエ兼ショップは、サーフィンができるビーチの目の前にあった。彼は、碧い海を見ながら、藍を染めている。サーフィンという、ほぼ哲学のようなものと仕事がリンクする生き方というのは、それだけで幸せだ。心底、羨ましく思った。

僕はレキ君に教わりながら、手ぬぐいを染めた。何が大変って、色落ちしなくなるまで何回も何回も水洗いを繰り返すのが大変だった。それでも本当にきれいな藍色の手ぬぐいが仕上がったときには、瞬時にして愛着が湧く。茶人が茶杓を自らつくるという行為の意味が、とても理解できた。

成人式に藍染め体験を

この体験を通して、思いついたアイデアがある。徳島県の若者たちは、それほど藍に興味がないだろう。それはどこの地方も同じで、地元の伝統工芸を知っていたり、その道に進もうとしたりする若者は少ない。

だったら、成人式で藍染め体験をさせるというのはどうだろうか。現在は20歳、2022年度からは18歳に引き下げられるが、彼らが成人する日に何か染めたいもの─タオルでも名刺入れでも財布でも─を持参する。それを全員で染め、成人を機に使いはじめる。世界にたったひとつの品は、使えば使うほど手に馴染み、少しずつ色褪せていく。徳島を出た若者は色褪せた藍の色を見て、多忙で故郷への想いも薄れている自分のことを少し反省するかもしれない。

そんなときのために、県庁の中に藍染めの工房「藍ラボ」をつくりましょう! 若者は染め直すために里帰りをする。そしてもう一度染め直された濃い藍に、息を吹き返した自分を投影するのです──って、完全に僕の妄想ですけど(笑)。

僕が徳島の県庁の方々にお会いして素敵だなと思ったのは、ブランド課も農林水産政策課も観光課も部署を超えて藍に関わっていること。だからブランディングができるし、商品がつくれるし、体験もできる。やはりそれが藍の魅力なんだろう。天然の染料だから川にだって流せるし、防虫効果もあるし、日本を代表する色(ジャパンブルー)でもあるし……最強の特産品ではないでしょうか。

とはいえ、藍を謳いすぎるのも良くない。藍はゴールではなく、入り口。そこから徳島がいかにオーガニックに富む地域であるか、豊かな暮らしがあるかをPRするほうがいいと思う。僭越ながら県庁の皆さんにはそうアドバイスをさせてもらった。というわけで、僕の今年の夏休みの思い出は、真っ青に染まった指先と阿波おどりの記憶です。

イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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