数あるリンクスの中でも「最も天国に近いところはどこか」と聞かれると、やはりここマクリハニッシュになるのであろう。
そもそもスコットランド西部にあるキンタイア半島の一番先っぽに位置するここマクリハニッシュ・ゴルフ・クラブは、キャンベルタウンという街の西側にある。この街は、日本人にはNHKの朝の連続テレビ小説「マッサン」の主人公のモデルとなったニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝がウイスキーづくりを学んだ地として紹介するとわかりやすいかもしれない。
キャンベルタウンは19世紀、30以上もの蒸溜所があったウイスキーの名産地であったが、その後衰退し、現在も操業しているのは3蒸溜所のみ。その3蒸溜所のうち、キャンベルタウンが「ウイスキーの首都」と呼ばれ栄えていた頃から生き残り、いまも当時の製法を続けているスプリングバンク蒸溜所のつくるシングルモルト「スプリングバンク」は、日本人でも比較的手に入れやすいだろう。
日本のウイスキーバーでもスプリングバンクを注文すると、詳しいバーテンダーであれば「おや」という顔で、この人はウイスキーを知っている人だと尊敬の眼差しを向けてくること間違いなし。さらに、キャンベルタウンに行ったことがあると話すと、羨ましいということで食いつきもよく、話も盛り上がる!
そんなキャンベルタウンからほど近くにあるマクリハニッシュは、グラスゴー国際空港から車で3時間半ほど運転するとたどり着く、陸の最終目的地のような場所にある。
この連載を読み続けてくれている読者にはおなじみの加茂先輩とプレイするべく、筆者は当時マクリハニッシュを目指していた。しかし、アイルランドのリンクス、ロイヤル・ポートラッシュ・ゴルフ・クラブでのプレイに心惹かれてしまい、ロイヤル・ポートラッシュへ立ち寄るべく、同行していた先輩の車を降り一足先にバスでキャンベルタウンに向かった。そんな中、夕刻にバスから見る道中の景色はあまりに素晴らしく、圧倒された。
筆者は中学時代にロンドンに滞在しており、当時ポール・マッカートニーが大好きだった。そんなポールが、Wingsというバンドを組んで活動していた1977年に、まさにこのキンタイア半島の岬を意味する「Mull of Kintyre」というタイトルのシングルを歌っていた。その曲が大好きだったのだが、中学生の私は歌詞の意味をよく理解できていなかった。それが45歳にして初めて、ポールがなぜわざわざこの歌を歌ったのか理解できた。
日本でいうと、といっても一概に比較できないが、読者の皆さんにイメージを持ってもらうためにあえて例えるとすると、知床半島のようなものであろうか。マクリハニッシュへ向かう道中から見た空の青った。きっと天国というのはこういうところなんだろうな、と心から感じた。