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超身軽なスタートアップという意味では、カイリーの事業はほとんど空気並みだ。しかも諸経費や販促コストが非常に少ないため、利益はほぼそのままカイリーの懐に入る。カイリーがすることといえば、ソーシャルメディア上のファン基盤をうまく活用すること。唇をぽってりさせたセルフィ写真をインスタグラムやスナップチャットに絶え間なく投稿してどの商品を使っているか紹介したり、新作を発表したりするのだ。

カイリーのインスタグラムのフォロワーは1億1000万人以上、スナップチャットは数百万人。多くは若い女性で、そのものが巨大な顧客層だ。これとは別に、カイリー・コスメティックスを直接フォローしている1640万人やカイリーをツイッターでフォローしている2560万人、カイリーの兄弟姉妹や友人によるソーシャルメディア上の“アシスト”による顧客層がいる。

インフルエンサーが動かす美容産業

これは、ドナルド・トランプが大統領選で繰り広げた初期の選挙運動とそれほど違わない。当時のトランプ陣営の戦略は、テレビ番組に電話をかけて出演したり、挑発的なツイートを投稿したり、折に触れて集会を開いたりすること。トランプとカイリーはどちらも、リアリティショーの出身者として、どうすれば有名であることをうまく利用できるか理解していた。自身がブランドであり、有名であるがゆえに無料でマーケティングができる。著名人のエンドースメント契約の本質はそこにある。

ソーシャルメディアによって有名であることが武器になり、極度に収益化されたことで、不動産王が大統領となり、“有名であることで有名”な一家の娘がほぼビリオネアになることが可能になったのだ。

美容産業の市場規模は5320億ドル。消費者基盤が常に若者であることからインフルエンサーやロールモデルが過剰なまでに購買に影響を及ぼしてきた。ジェネレーションZ(1990年代後半以降生まれの世代)の消費者は、ファストファッションを好む一方で、ロレアルやエスティ ローダーなどの勢いに欠ける化粧品ブランドを避け、ソーシャルメディアで知った商品を好んできた。

シンディ・クロフォードやナオミ・キャンベルら御用達のエステティシャン、アナスタシア・ソアレは、自身のブランド「アナスタシア・ビバリーヒルズ」を通じて2000年にアイブロウパウダーとアイブロウペンシルの販売を開始。だが爆発的に売れ始めたのは、13年にインスタグラムのアカウントを開設し、インフルエンサーに無料で化粧品を送って宣伝してもらうようになってからだ。

同ブランドのアカウントはいまやフォロワー数1700万人。商品は3000店舗以上で販売され、ソアレは推定資産10億ドルで60歳にしてフォーブス誌の「自力で富を築いた米国の女性富豪ランキング」に初登場を果たした。同ランキングに今年初登場したフーダ・カタン(34)も、インスタグラムの恩恵を受けている。

とはいえ、カイリーは別格だ。

姉のキムがセックスビデオの流出で知名度を一気に押し上げたように、カイリーの会社もスキャンダルを逆手に取ることで始まった。

14年、唇が大きくふくらんだカイリーの容姿はタブロイド紙の格好のネタとなる。ソーシャルメディアでは10代による「カイリー・ジェンナー・リップ・チャレンジ」が広まり、ショットグラスに唇を押し込んで中の空気を吸い出す行為が大流行。15年5月、カイリーはリップフィラー(ヒアルロン酸注入)の施術を受けていたことを認め、すぐにこの状況を利用した。

当時を振り返って彼女は言う。

「『お金をつぎ込むときが来た。他の誰とも組みたくない』と言ったの」

text by Natal ie Robehmed photograph by Jamel Toppin for Forbes translate by Rie Kimura

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