ビジネス

2018.11.14

「文字を読むメガネ」開発者が実践する社会のデザイン #NEXT_U30

オトングラス代表 島影圭佑




3つ目の「デザイナー」という肩書きは、上記の2つにあてはまらない実験的な活動を個人で取り組む際に使っています。

代表的な事例としてはIAMASでの私の修了制作『日本を思索する』です。これは「日本が4つに分かれる」と仮定した未来のシナリオを元に、インストラクション、インスタレーション、ワークショップなど様々な方法を使って人々に「あなたが望む日本とは何か?」を問うスペキュラティブデザインを実践したプロジェクトです。

De=designしなければ、人類は滅んでしまう

──お話を伺っていると、単に「製品を社会に普及させたい」という範疇を超えた問題意識がある気がします。そうした活動の核となる問題意識は、どこにあるのでしょうか。

本格的にデザインに興味をもつきっかけになったのは、大学生時代に出会ったヴィクター・パパネックの著書『生きのびるためのデザイン』(1971)です。

パパネックは産業革命直後のデザインに非常に批判的でした。例えば室内で使うライトをデザインする際に、普通のデザイナーならば空間を魅力的にするライトをつくるところを、パパネックは捨てるはずの缶に油をいれ、そこに火を灯したライトを提案しました。この方が環境を破壊せず、長期的には人類にとってより良いデザインになるというのが彼の考えです。

彼の思想は「サステイナブルデザイン」など新たな領域を生みました。ただ注目すべきなのはそういった概念の話ではなく、彼の態度です。

──というと?

重要なのは、当時の主流なデザインに対してラディカルな姿勢を貫いたことです。

彼の本の最後のページに「我々人類が生きのびるためには脱デザイン(De=design)が必要だ」と書かれています。これは人間がデザインという活動を通して進化し続ける生き物であるということを前提に、常にその進化の方向を脱し続けなければ、人類は「生きのびる」ことができないと言っていると私は解釈しています。

問いを生むスペキュラティブデザイン

──デザインの文脈で、他に影響を受けた人物はいますか?

主流のデザインに対してラディカルな態度で応答しているデザイナーとしてアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーがいます。彼らは問題を解決するためのデザインではなくて問題を浮き上がらせ議論を引き起こす「スペキュラティブデザイン」を提唱しました。

環境汚染、生命倫理、監視社会など今我々の目の前に立ちはだかっているものは、簡単に解決できない複雑で厄介な問題群です。スペキュラティブデザインの手法(態度)によって、その問題自体を表面化し、あなたが望む社会とは何かを問い、議論する場をつくる活動を始めたのがダン&レイビーです。

僕が土台にしているのは、こうしたラディカルな思想を持ったデザイナーの歴史です。彼・彼女らの思想を批評的に継承し、現在の環境であったり僕にしかできないラディカルなデザインの実践に取り組みたいと考えています。
次ページ > 人工物を起点として社会に問いを投げかけ続ける

文=野口直希 写真=小田駿一

タグ:

連載

NEXT UNDER30

ForbesBrandVoice

人気記事