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2018.11.19 11:00

ブームが落ち着いたからこそ、仮想通貨はもっと面白い役割を担える── DMM Bitcoin田口社長に聞く

(左)Forbes JAPAN副編集長 谷本 有香 (右)DMM Bitcoin 代表取締役社長 田口 仁

(左)Forbes JAPAN副編集長 谷本 有香 (右)DMM Bitcoin 代表取締役社長 田口 仁

「仮想通貨元年」とされた2017年。

新たな資産運用の手段として一部熱狂的なまでに注目されながらも、その年の暮れから2018年にかけ、立て続けに起こった仮想通貨流出問題も発生。一気に風向きが変わったようにも思える。

果たして、仮想通貨は不確かな通貨なのか。仮想通貨の現在地、そしてこれからの可能性について、フォーブス編集部副編集長を務める谷本有香がDMM Bitcoin代表取締役社長の田口仁氏に迫る。


熱狂が終わったからこそ、仮想通貨“本来の価値”が注目される

谷本:昨今、仮想通貨やトークンに注目が集まっていますが、一方で去年から今年にかけて取引所における仮想通貨一部流出など、ネガティブな問題も起こり、熱狂が終わったようにも思えます。田口さんはどのようにこの状況を捉えていらっしゃいますか。
 


田口:おっしゃる通り、2017年はある種、熱狂的なまでに仮想通貨が話題となっていました。感度の高い若者やアーリーアダプターを中心に、アーリーマジョリティがそれに追随する形で、仮想通貨取引を始めていました。

ただ、流出問題が起こり、その流れが落ち着きを取り戻しました。その結果、仮想通貨の基盤である「ブロックチェーン技術」に目が向きはじめたのです。そしてこの技術への理解が進み、見極められた上で仮想通貨やトークンが社会へどう受け入れられていくか、この1、2年がキーになると考えています。

谷本:この1、2年、ですか。

田口:ええ。世界各国では今まさに法整備が進められつつあります。一時は世界的に見ても日本がその法整備も先行している状況でしたが、今はシンガポールやアメリカがやや先行し、証券の一部に取り込むような形で法規制を入れようとしているようです。

日本では資金決済法に基づいて取引されていますが、おそらく日本でも金融商品取引法などの金融法規制の適用範囲とするかどうか、実態と照らし合わせて判断していくことになるのではないかと。

谷本:法規制が進むとボラティリティ(価格の変動率)が低くなってしまい、資産運用先として魅力が薄れると感じる方もいるかもしれませんね。

田口:確かに「面白くない」と感じる人もいるかもしれませんが、それはごく一部。むしろ大多数は法整備が進むことで、安定的な資産形成が可能となるなら、アセットクラス(投資対象)の一部として採用したいと考えるのではないでしょうか。

実際、法定通貨に連動した価値が担保されたステーブルコインがいくつも発行され、大手金融機関や企業でも仮想通貨を発行する動きが出てきています。そうやって社会的基盤が整備されれば、仮想通貨が普及しやすくなるのは間違いないでしょう。


中央銀行とネットガリバーは、仮想通貨のライバルであり、味方

谷本:仮想通貨取引所の中には中央集権型ではなく、分散型モデルによる通貨流通を掲げているところもありますが、そういった理念と法規制は相反する部分もありますよね。このあたりはどう折り合いをつけていくのでしょうか。



田口:分散型モデルを考えるうえで、そもそも仮想通貨の意義を問い直すことが、その理解に役立つかもしれません。仮想通貨は大きく二つの既存組織に対してゲームチェンジを仕掛けているんです。なんだと思います?

谷本:なんでしょう……国家、ですか?

田口:いい読みですね。一つは、“金融村”。いわゆる中央銀行や証券会社など、通貨を仕切っている業界に対してゲームチェンジを仕掛けています。

既存の金融業界はいわゆる中央集権型データベースネットワークになっていて、取引や決済が一元的に行なわれている。それに対し、仮想通貨は分散台帳技術を活用して発行体や管理者のない……あったとしてもコンソーシアム型に分散しているモデルを採用して、既存モデルを置き換えようとしているんです。

谷本:なるほど。

田口:そしてもう一つは、「ネットガリバー」。インターネットの登場から、既存のさまざまなものが置き換わりましたよね。手紙や電話がメールやチャットに、実店舗がEコマースに……。その過程でAmazonやGoogle、Facebookなど時価総額ランキング上位はIT企業ばかりになった。

彼らはそれまで国がライセンスを出す形で規制していた電波や放送分野を置き換える形で、広告収入をもとにしたフリーミアムモデルと定額制のサブスクリプションモデルでコンテンツを提供し、高収益なビジネスモデルを成立させた。

ただ、最近ではプライバシー保護の観点から、GoogleやFacebookなどに批判が集まってきている。個人情報流出問題もありましたからね。

ですから、そういった特定の企業が情報を管理する中央集権型ではなく、ユーザーが自律的に管理できる分散型プラットフォームに置き換えようとしているのが仮想通貨のプロジェクトなんです。ある意味、仮想通貨を購入する=分散型のプロジェクトに賛同することでもあるかもしれませんね。

谷本:なるほど。でもやはり資金を投じるには信頼が重要ですよね。仮想通貨がそういったアセットを獲得するにはどんな条件が必要になってくるのでしょうか。

田口:仮想通貨が法定通貨に置き換わるほどの支持を得て、ネットガリバーが所有するものに匹敵するようなプラットフォームを手にできれば、自ずとアセットを獲得することはできるでしょう。

ただ、仮想通貨自体、勝負を仕掛けている両者に依存している存在ではあるんです。仮想通貨での決済はまだまだ普及していないので、法定通貨に換金しなければ使えない。

もし仮想通貨の広告がネットガリバーによってリジェクトされるような事態が起これば、信頼が損なわれる可能性もあります。

ベストは、各国である一定の法整備が進んで、法的根拠のあるものとして仮想通貨が発行できるようになれば、いわゆる中央銀行やネットガリバーもこぞって発行するようになるでしょう。そうなれば社会基盤として大きなアセットを獲得していくことになりますね。

ある種のジレンマがありますね。ただ、利用者にとっては、「安心して使える」というのがいちばん大きなメリットじゃないですか。去年から今年にかけて冷静な状況になって、ますますそういった流れになってきていると思います。

 


メルカリ、LINE、三菱UFJ銀行も。仮想通貨が一気に“リアルな通貨”になっていく

谷本:では、法定通貨とは異なるものとして仮想通貨が流通していくことにどんなメリットがあるのでしょうか。

田口:仮想通貨のほうが圧倒的に資金サイクルを早く回すことができるんです。収入代行やクレジット決済よりも早く決済し、手数料を削減できますから、自社でコインを発行して流通させることに大きなメリットがあるんです。

いわば、今多くの会社が導入しているポイント制度だってトークンの一種なんですよ。メルカリやLINEなどが参入を表明しているのも、そういう背景があるんです。自社グループでクレジットや収入代行会社を持っている金融機関は、なかなかスタンスが難しい部分もありますが、三菱UFJ銀行は2019年に「コイン」という自社仮想通貨の発行を予定している。

それは顧客の実用性を考えて、デビット決済なども含めた選択肢の一つとして考えているからでしょう。そうやってまさにこの1、2年で流通する仮想通貨も増えていくことで、一気に普及する可能性は高いと考えています。

谷本:となると、ますます仮想通貨のマーケットが広がっていきますよね。その中でDMM bitcoinの強みはどういったところにあるのでしょうか。

田口:やはり顧客の資産をお預かりすることになりますから、アセットクラスの一つとして、安心安全で継続的に取引できるというのが大前提となります。当社はグループ会社のDMM.com証券で長く培ってきた金融ノウハウがありますし、他のベンチャー企業と比べてもかなり保守的にサービス運用を行っているため、セキュリティや内部管理体制については大きな自信を持っています。

レバレッジ取引においてもリスク管理や機能性を徹底していて、取引頻度の高いお客様ほど使い勝手の良さを実感してもらえると思います。

谷本:とはいえ、多くの方がまだ様子見されている状況でもあります。今のタイミングで仮想通貨をはじめるメリットはどんなところにあるのでしょうか。

田口:こういうときに「儲かります」……なんて言うのは、僕の性分じゃないんですよね(笑)。そもそも金融というのはゼロサムゲーム(全員の利得の総和が常にゼロ)ですから、儲かる人もいれば、そうでない人もいる。

ただ、先ほどお話しした通り、この1、2年で仮想通貨も増え、その価値も定まってくるでしょう。当社としては、社会基盤として長く使われていくような仮想通貨を一つでも多く銘柄として提供し、信頼の高い取引所として存在していきたいですね。

谷本:色々とお話しを聞きましたが、これから仮想通貨はどうなっていくのでしょうか。

田口:社会基盤として幅広く利活用されると思いますね。ある種、仮想通貨のECプラットフォームというか、「今この通貨が欲しい」「この通貨を使い切れなかったから、売りたい」とか、個人レベルでP2Pのやり取りできるような形になっていくはず。そのプラットフォームには物販やオークションもあるような、より生活密着型になるのではないか、と。

谷本:DMMグループにはさまざまなサービスやコンテンツもありますから、それはそれで強みにもなりそうですね。

田口:そうですね。少なくとも来年度には、P2Pを強化する意味でも、シークレットキーを自分のスマホのみで管理できるようなツールを提供したいと考えています。そうやってマーケットとテクノロジーが進化していけば、自分の持っている資産や権利、情報が分散台帳に収まっていて、それを個人のスマホで呼び出せるようになるかもしれない。

谷本:面白そう! まさにSFの世界ですね。

田口:今実現している技術って、科学者や研究者がSFで読んだ世界を「こうなったらいいな」と思って実行したからこそ、実現していると思うんです。「翻訳こんにゃく」だってもう実現していますからね(笑)そう考えると、いつか現金のいらない、トークンエコノミーの世界も実現するかもしれませんよ。

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田口 仁◎DMM Bitcoin 代表取締役社長。埼玉県越谷市出身。1994年早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱商事株式会社へ入社。その後ライブドア、DeNA、EMCOMなどでさまざまな事業立ち上げや運用に携わる。2018年から現職。

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